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執筆獣医師:齋藤厚子先生
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

猫の甲状腺腫瘍とは

猫の甲状腺には良性腫瘍と悪性腫瘍が発生することがあります。

甲状腺は首の前側に気管を挟んで左右に存在するホルモンの分泌器官です。
体温の調整や体の代謝、活動性を保つために必要なホルモンを分泌している臓器ですが、高齢の猫では甲状腺に腫瘍が形成され、ホルモン分泌が異常になることがあります。

一般的には良性腫瘍(甲状腺腺腫あるいは腺腫様過形成)が多いとされていますが、中には悪性の甲状腺癌が発生することもあるため、注意が必要です。

猫の甲状腺腫瘍の症状とは

甲状腺ホルモンが過剰に放出されることによる症状が見られます。

甲状腺に腫瘍が形成されると、甲状腺ホルモンが過剰に放出されることによって甲状腺機能亢進症が起こり以下のような症状が現れます。

・興奮しやすい
・食欲が亢進する
・食べているのに痩せている
・よく吐く
・軟便~下痢
・被毛が粗剛になる(毛艶が悪くパサパサになる)
・夜鳴きがひどい
・多飲多尿
・頻脈
・高血圧

腫瘍が良性であっても悪性であってもこれらの症状は同様にみられるため、症状から腫瘍の種類を特定することは困難です。

喉の触診で甲状腺の腫れが触知できることがありますが、良性の場合は左右対称性に軽度に腫大することが多く、片側だけ大きく腫れる場合や甲状腺の位置からずれた場所に大きな腫瘤ができている場合は悪性の腫瘍のことが多いようです。

甲状腺ホルモンが過剰に放出された状態が長く続くと、頻脈や高血圧などにより体の臓器に悪影響を及ぼし、肥大型心筋症などの原因となることもあります。

猫の甲状腺腫瘍の原因とは

加齢が要因となっている可能性があります。

猫の甲状腺の腫瘍は、ほとんどの場合10歳以上の高齢猫で認められます。
そのため、加齢が発症要因の一つであると考えられます。

それ以外に発症に関連する要因として、ヨウ素などの栄養因子や毒素や薬物などの環境因子の影響が考えられていますが、はっきりとは解明されていません。

猫の甲状腺腫瘍の好発品種について

好発する品種はありません。

甲状腺腫瘍が発生しやすい品種は特に報告されていません。
良性の腺腫や過形成は甲状腺機能亢進症の主な原因であり、どんな猫にでも高齢になると起こる可能性があります。

猫の甲状腺腫瘍の予防方法について

発症を予防する方法はありません。

甲状腺腫瘍の発症原因はよくわかっていないため、予防できる方法はありません。
高齢期に突入したら定期的に健康診断を受け、特徴的な症状や急激な体重減少がみられた場合には甲状腺のホルモン検査などを受ける様にして早期発見に努めましょう。

猫の甲状腺腫瘍の治療方法について

良性の腫瘍は内科治療でホルモンを抑える治療を行います。

甲状腺の腫瘍の中でも良性の病変の可能性が高い場合には、まずはホルモンの分泌を抑える治療を内科的に行います。

初期には低用量の抗甲状腺薬を投与し、ホルモンの数値を検査しながら徐々に必要な段階まで投薬量を増量していきます。
抗甲状腺薬の投与で甲状腺ホルモンのレベルを正常範囲にコントロールできる場合には、定期的な血液検査を行いながらその後も投薬を継続します。

ただし、治療を行い血圧が正常に戻ると、高血圧によって隠されていた腎機能の低下が顕在化することもあるため、必要に応じて腎臓のケアも併せて開始する必要があります。

悪性が疑われる場合は外科手術を検討します。

甲状腺が片方だけ非常に大きくなるような場合や、本来の甲状腺の場所からずれた部位で大きな腫瘤を形成している場合は悪性腫瘍の可能性が考えられます。
針生検などの細胞の検査で悪性の可能性が示唆されることもありますが、細胞検査だけでは診断がつかないこともあります。

リンパ節や肺への転移がみられないことが確認出来たら、腫瘍を外科的に摘出することを検討します。
また良性の腫瘍であっても、内科的に甲状腺ホルモンのコントロールが難しい場合には手術による切除を検討する場合があります。

甲状腺の摘出手術は、患者が高齢であることやホルモンの影響によって高血圧であること、また高血圧に隠れて慢性腎臓病が存在することがあるため、慎重に検討する必要があります。

手術を終えた後はホルモンの検査を定期的に行い、甲状腺ホルモンが逆に不足する場合には必要に応じてホルモンを補充する投薬を行います。

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