猫の「多尿」症状とは
水のような色の薄い尿を大量にします。
猫の尿量が異常に増える『多尿』は病気のサインです。
猫はもともと犬ほどたくさんの水分をとらない動物ですが、多尿になると体の水分が不足するために水をたくさん飲むようになる『多飲』も同時に認められるようになり、ひとまとめに『多飲多尿』として様々な病気の兆候として重要視されています。
多尿が起こる場合には腎臓や内分泌器官などに問題が生じていることが多く、以下に示すような症状を伴っていることがあります。
・多飲
・失禁(トイレ以外の場所での排尿)
・食欲不振あるいは異常な食欲
・元気がない
・興奮しやすい
・瞳孔が開いたままになる
・吐き気や嘔吐
・脱水
・体がやせる
・お腹が異常に膨らむ
多尿がみられた場合には尿検査・血液検査などをはじめ全身の検査を行い、その原因を調べなくてはなりません。
可能であれば尿を持参して動物病院を受診するようにしましょう。
猫の「多尿」症状の考えられる病気(原因)とは
高齢猫では慢性腎臓病が多くみられます。
猫に多く発症する腎臓病は、多尿を起こす代表的な疾患です。
健康な腎臓では、尿は必要な水分が再吸収され濃縮された状態で排泄されますが、腎臓の機能が低下すると水分が十分に再吸収されないまま尿として排泄されてしまうようになります。
その結果、水分の多い薄い尿が大量に排泄されるようになり、体は脱水状態に傾くために飲水量が増えます。
高齢猫では加齢に伴って徐々に腎機能が低下する慢性腎臓病が多くみられますが、遺伝的に多発性嚢胞腎の素因をもって生まれてきた猫では若齢でも腎機能が低下し、多尿や多飲がみられることがあります。
内分泌疾患が原因の場合もあります。
以下のような甲状腺や副腎、膵臓などから分泌されるホルモンの異常によっても多尿が起こります。
・甲状腺機能亢進症
・副腎皮質機能亢進症
・糖尿病
・尿崩症
10歳以上の高齢猫では甲状腺機能亢進症によって多飲多尿が起こることがあります。
体の代謝を活発にする甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることによって体は活動的になり、年齢の割に元気ととらえられることも多い病気ですが、治療せずにいると体は代謝の亢進によって痩せ、興奮しやすくなり、高血圧などによって心臓や目など体のさまざまな器官に負担がかかってしまいます。
副腎皮質機能亢進症は副腎という非常に小さなホルモン分泌器官からコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されるようになる疾患です。
副腎自体の腫瘍や副腎を支配している脳下垂体の腫瘍などが原因で起こりますが、多飲多尿の他に筋肉の萎縮や感染症にかかりやすくなる、糖尿病を併発するなどといった合併症を起こします。
糖尿病は膵臓から出るインスリンの不足や分泌されたインスリンの効果が十分に発揮されないことによって起こります。
血糖値が高くなるために尿に糖が出るようになり、顕著な多飲多尿がみられます。
糖尿病は重症化すると様々な合併症を起こすほか、糖尿病性ケトアシドーシスという状態に陥ると命に関わります。
尿崩症は脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌に異常が生じる病気です。
バソプレシンには体の水分調整を行う働きがあり、腎臓における水分の再吸収にも関わっているため、分泌に異常が生じると尿がとめどなく作られるようになり多尿が起こります。
多尿の状態が続くと脱水や体の電解質バランスの異常が起こり、命に関わることもあります。
子宮の病気や腫瘍などが原因となることもあります。
未避妊の雌猫では、子宮内に細菌感染が起こり子宮蓄膿症を起こすことがあります。
子宮蓄膿症では顕著な多飲多尿がみられ、陰部からオリモノが出る様子が見られたり、妊娠したかのようにお腹が急に膨れる様子が見られます。
また、元気・食欲もなくなり、ぐったりして横になっていることが多くなります。
腫瘍疾患に伴って多飲多尿が起こることもあります。
腫瘍疾患では高カルシウム血症を起こすことがあり、それに伴って多尿が起こります。
高カルシウム血症は上皮小体の異常によっても起こることがありますが猫での発生は比較的稀です。
猫の「多尿」症状の好発品種について
全猫種で好発します。
特にありません。
様々な疾患によって様々な年代の猫に起こる症状です。
猫の「多尿」症状の予防方法について
定期的に健康診断を受けましょう。
多尿を起こす疾患の中には加齢に伴って起こりやすくなる疾患が含まれています。
特に高齢猫で多い慢性腎臓病は、進行してからの治療より初期治療をいかに早く始めて進行を抑えられるかが重要な疾患です。
ワクチン接種時などには尿検査や血液検査を定期的に受け、これらの病気の兆候を見落とさないようにすることで、病気の重症化を防ぎましょう。
避妊手術を検討しましょう。
子宮の疾患を予防するためには避妊手術をしておくことが最も効果的です。
子供を産ませる予定がない場合には若いうちに避妊手術をしておくことをお勧めします。
避妊手術をすることで子宮疾患だけでなく将来的な乳腺腫瘍の発生率を下げ、卵巣腫瘍の発生も完全に予防できます。
猫の「多尿」症状の治療方法について
腎臓病は進行ステージに応じた治療を行います。
慢性腎臓病は初期治療が重要な疾患です。
より早く見つけてより早く対処することで進行を効果的に抑制できます。
初期の段階では食事療法をメインとし、腎臓にかかる負担を軽減します。
その後は進行の状況に合わせて、活性炭や血管拡張剤などの投薬治療、脱水が強くなる場合には点滴治療などを合わせて行います。
原因疾患に対する治療をそれぞれ行います。
甲状腺機能亢進症の治療は抗甲状腺ホルモン薬の投与を行います。
多くの甲状腺機能亢進症は良性の甲状腺腫などが原因ですが、まれに悪性腫瘍が原因となっていることがあり、その場合には手術による切除を検討します。
副腎皮質機能亢進症に対しては多くの場合はコルチゾールの合成を抑えるお薬を投薬しますが、状況によっては副腎腫瘍を切除する手術を行う場合もあります。
糖尿病に対してはインスリン治療や食事療法を行います。
肥満傾向の猫の糖尿病の多くは、初期の段階で体重管理を行うことでインスリン投与が必要なくなるケースもあるため、食事管理を徹底することは非常に重要です。
尿崩症に対しては抗利尿ホルモン剤を投与する治療を行います。
お薬は人で用いる点鼻薬を点眼薬として使用します。
腫瘍疾患などによる高カルシウム血症が原因の場合は、まずは原因病巣がどこにあるかを突き止め、それぞれに対する治療(外科治療や抗がん剤治療)を検討します。
子宮蓄膿症の治療には手術が必要です。
子宮蓄膿症の場合には、手術で膿の溜まった子宮と卵巣を切除することが必要です。
手術自体は避妊手術と同じ方法ですが、子宮に起こった細菌感染によって全身状態が悪いことに加え、多くの場合は中高齢になって発症するため、歳をとっている分麻酔のリスクは高くなります。
中には手術をせずに子宮の出口を開いて排膿させる治療を行うこともありますが、再発率が高いため手術ができないほど重大な疾患がない限りはお勧めできません。