猫の「開口呼吸・呼吸が早い(頻呼吸)」症状とは
口を開けて浅く速い呼吸をします。
猫は通常口を閉じて鼻で呼吸しているため、開口呼吸している時は異常事態が起こっている時と考えられます。
原因には様々なものが考えられますが、以下のような症状を伴っている場合には特に注意が必要です。
・粘膜や舌の色が白っぽい
・舌の色が青っぽい(チアノーゼ)
・呼吸が非常に速い
・立てない、ぐったりしている
・咳が出る
・発熱
・呼吸音がうるさい
・意識がもうろうとしている
・失神する
呼吸の異常は命に関わる緊急事態のことが多いため、できるだけ早く病院へ連れて行きましょう。
猫の「開口呼吸・呼吸が早い(頻呼吸)」症状の考えられる病気(原因)とは
呼吸器に異常があります。
鼻腔内や気管、肺などの呼吸器に異常が起こると、呼吸自体が苦しくなり開口呼吸や頻呼吸になります。
また肺が膨らむ空間である胸腔内に液体などが貯まった状態になった場合も、肺が十分に膨らまないために呼吸が苦しくなります。
以下に呼吸器の異常として考えられるものを挙げますが、この中でも肺自体に起こった異常の場合は、より緊急性の高い状態です。
鼻腔内疾患
・鼻炎(鼻汁・鼻づまり)
・鼻腔内腫瘍
気管の異常
・気管支炎
・気管内異物
・喘息
肺の異常
・肺炎
・肺水腫
・肺腫瘍(肺原発の腫瘍または転移性病巣)
胸腔内の異常
・胸水
・血胸
・膿胸
・横隔膜ヘルニア
心臓疾患によって起こります。
肥大型心筋症などの心筋症や、稀ですがフィラリア感染症などによって心臓から全身に送り出される血流が不足したとき、体が酸欠状態となり、呼吸が速くなったり開口呼吸したりします。
特にこれらの疾患を思っている猫が緊張状態になった時や興奮したときに発症することが多く、重度の場合には意識を失って倒れることもあります。
また、肥大型心筋症などに伴って動脈血栓塞栓症を起こした場合には、心臓で形成された血栓が内股のあたりにある動脈の分岐部で詰まり、急性の後ろ足の麻痺と強い痛みが起こり、それによってパニック状態となった猫が興奮して開口呼吸や頻呼吸を示すこともあります。
その他にも様々な原因で起こります。
肺疾患や心疾患の他に、発作や強い痛み、重度の貧血、過度の緊張、中毒物質の摂取、熱中症などによって開口呼吸や頻呼吸がみられることがあります。
甲状腺機能亢進症の猫では、ホルモンの影響によって代謝が亢進し、興奮しやすい状態になっているために呼吸が速いことがありますが、心拍数の上昇に伴って肥大型心筋症を起こしている場合もあり、その影響で興奮状態になった時にさらに呼吸が苦しくなってしまうことがあります。
他には、痙攣発作を起こした後や、骨折などの外傷に伴う強い痛みに伴って、あるいはもともと神経質な気質の猫が過度の緊張状態に陥った時にも呼吸が速くなります。
感染症(ヘモプラズマ、猫エイズ・猫白血病ウイルス感染症)や免疫疾患、腫瘍疾患などによって重度の貧血が起こった場合には、全身に酸素を運ぶ赤血球が不足するために体が酸欠となり、呼吸が速くなったり、少し運動の負荷がかかった時に開口呼吸に陥ることがあります。
何らかの中毒性物質(タマネギやチョコレート、アセトアミノフェン、エチレングリコールなど)を摂取したことで呼吸が苦しい状態になってしまうケースもあります。
夏の暑い時期に体が熱くなると、犬と同様に猫は体で汗をかいて熱を放散することができないため、口から熱を放散するために開口呼吸がみられます。
この場合は熱中症などに陥っている可能性もあり注意が必要です。
猫の「開口呼吸・呼吸が早い(頻呼吸)」症状の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- アメリカンショートヘア
- スコティッシュフォールド
- ノルウェージャンフォレストキャット
- ブリティッシュショートヘア
- ペルシャ
- メインクーン
- ラグドール
心筋症の好発品種は、発症すると興奮時などに開口呼吸が認められることがあります。
猫の「開口呼吸・呼吸が早い(頻呼吸)」症状の予防方法について
感染症を予防しましょう。
ウイルス疾患や細菌感染は、呼吸器症状や貧血の原因となることがあります。
猫カゼ症状を示す猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルス、クラミジアなどは定期的なワクチン接種で予防が可能です。
ヘモプラズマや猫エイズウイルス、猫白血病ウイルスの感染では、発症時に貧血を起こすことがあり、これらの疾患の予防としては室内飼育を徹底し、ノミやダニの寄生経路を断つことや感染している猫との接触を防ぐことが有効です。
予防接種や室内飼育を徹底することで、感染症を予防してあげましょう。
定期的に健康診断を受けましょう。
心臓疾患や胸腔内疾患、横隔膜ヘルニアなどは、初期症状が出ないこともあり、症状が出始めたときにはすでにある程度進行してしまっていることも多い疾患です。
しかし、健康診断で心臓や肺の音の聴診、胸のレントゲン検査を受けていれば、症状が顕著になる前に発見することも可能です。
特に中年齢以上の猫や、心筋症の好発品種に該当する猫などでは、定期的に健康診断を受けることをお勧めします。
猫の「開口呼吸・呼吸が早い(頻呼吸)」症状の治療方法について
緊急時には酸素吸入などが必要です。
呼吸の異常は、原因によっては緊急性が高いこともあり、迅速な治療が必要です。
呼吸困難に陥っている場合やチアノーゼがみられる場合には、まずは酸素室などに入り、高濃度の酸素で呼吸状態を安定させることを優先して行います。
状態が少し安定した段階で、様子を見ながらレントゲン検査や血液検査、必要に応じて超音波検査を行い、治療方針を決めていきます。
原因に対する投薬治療を行います。
呼吸が苦しい原因を検査で突き止めた後は、投薬治療を行います。
感染症によって上部気道炎(鼻炎や気管支炎)や肺炎が起こっている場合、細菌感染に対しては抗生物質、ウイルス疾患に対してはインターフェロンなどを投与するほか、呼吸状態を改善するために気管支拡張剤や去痰剤、状態に応じて消炎剤などを使用します。
心臓疾患やそれに伴う肺水腫がみられる場合には、血管拡張剤や心拍数を調整するお薬などで心臓の状態を改善しながら、肺のむくみをとるために利尿剤などを投与します。
呼吸状態が安定した後も心臓病の治療は生涯継続する必要があります。
また重度の貧血によって呼吸状態が悪化している場合には、貧血を改善する治療が必要です。
貧血の原因は様々で、慢性疾患による貧血や腎臓病に伴って起こる貧血の場合は、葉酸などの投与、造血ホルモンの補充などで内科的に治療を行いつつ、原疾患の治療を行います。
急性または慢性出血によって起こった貧血の場合は出血を止めることが必要ですが、緊急処置として輸血などを検討します。
自己免疫によって赤血球が壊されてしまう疾患の場合は、ステロイド剤や免疫抑制剤による治療などが行われます。
必要に応じて胸腔穿刺や外科処置を行います。
胸腔内に大量の液体が貯留している時には、検査と治療を兼ねて、胸腔に針を刺して貯留液を抜去します。
抜いた液の性状を検査し、感染が疑われる場合は抗生物質やインターフェロンの投与を行います。
持続的に胸腔から液体を抜く必要がある場合や胸腔内の洗浄が必要な場合は、胸腔にドレーンという管を設置することもあります。
胸腔内の腫瘍や出血がある場合、あるいは横隔膜ヘルニアなどが起こっている場合には、手術による腫瘍や出血部の切除、ヘルニアの整復などが必要になりますが、その適応については全身状態を精査して慎重に判断する必要があります。