犬の「お腹が膨れている(腹水)」症状とは
血管内の水分が漏れ出している状態です。
血管内の水分が何らかの原因によって血管外に漏れ出してしまい、腹腔内に貯留することで腹水が見られるようになります。
心臓に問題を抱えている場合、心臓の力が弱まると心臓から血液が出て行かなくなってしまい、心臓に溜まり始めます。心臓に溜まった血液が行き場を探し限界を超えると、腹腔内の毛細血管から水分が漏れ出してしまうことがあります。
また、血液中の蛋白質であるアルブミンが低下することで腹水が見られるようになります。アルブミンは血管内の水分保持や血管内に水分を引き込む働きをしています。
肝臓に起きた問題により、肝臓の血管である門脈の血圧が上昇することがあります。門脈圧が亢進することで、内臓の静脈鬱滞を引き起こし、腹水が見られるようになります。
腹腔内腫瘍によって腹水が認められることもあります。腫瘍細胞から産生される増殖因子によるもの、腫瘍によるリンパ閉塞などが原因として挙げられます。
腹水が重度である場合は、呼吸が苦しい、消化管の運動性を妨げる、などの症状が見られます。
犬の「お腹が膨れている(腹水)」症状の考えられる病気(原因)とは
拡張型心筋症
心臓の筋肉である心筋の厚みが薄くなる疾患です。主に左心室が拡大してしまい、心室の収縮力が低下し、心肺の機能不全が引き起こされます。犬の後天性の心疾患の中では、僧帽弁閉鎖不全症の次に多いとされています。
筋の働きが低下することで、心臓から全身や肺に対して十分な血液量が拍出されなくなります。その結果、全身の酸素量が低下し、運動不耐性、時に失神を引き起こします。
血液の拍出量が減ることで全身や肺から心臓に戻る血液が減り、うっ血性心不全が引き起こされます。うっ血性心不全により血管より水分が漏れでてしまい、肺水腫を引き起こし、頻呼吸(ひんこきゅう)や呼吸困難などの症状が見られるようになります。
また、心室期外収縮、心室頻拍、心房細動などの不整脈が見られることが多いとされています。不整脈によって引き起こされる失神、虚脱、突然死などが見られることもあります。心房細動が見られる症例では、胸水貯留、腹水貯留が認められることもあります。
フィラリア症
犬の血液内で生活し、心臓に寄生する犬糸状虫が原因となる感染症です。寄生によって心臓や肺に高負荷がかかり、様々な症状が引き起こされます。蚊よって媒介されるため感染を広げる力が強く、予防が非常に重要な感染症です。
肺動脈や心臓に寄生することで、血流や、心臓の弁の適切な働きを妨げ、心負担の増大や肺高血圧症を引き起こします。散歩を嫌がる、疲れやすいなどの運動不耐性、呼吸が浅く速い、咳が出る、粘膜が青白い(チアノーゼ)などの呼吸器症状がみられます。
血管内で寿命を迎えたフィラリアは血流にのり、肺や腎臓、肝臓などの毛細血管を詰まらせ臓器障害を引き起こします。
心機能の低下によるうっ血、臓器障害による血液成分の変化が原因になり、全身の血管から水分が血管外に漏出することで、腹水の貯留(お腹が膨らみ下垂する)、浮腫などの症状がみられます。
慢性肝炎
犬の慢性肝炎は、炎症細胞の浸潤と肝細胞の壊死が存在し、様々な程度の肝臓の線維化や肝細胞の再生が見られる状態になります。
慢性肝炎の終末像である肝硬変は、び慢性に線維化が広がり、肝実質の構造が失われ、結節性病変で置き換わった状態です。
慢性肝炎の原因として、感染性、代謝性、自己免疫性、薬物誘発性、などが挙げられますが、実際には原因が特定できない特発性であることが多いです。
慢性肝炎の初期には臨床症状はほとんど見られず、血液化学検査で肝酵素の上昇が認められるのみです。
症状が進行することで、食欲低下、元気消失、黄疸、嘔吐、下痢、腹水、肝性脳症などの臨床徴候が認められるようになります。
犬の「お腹が膨れている(腹水)」症状の好発品種について
以下の犬種で好発がみられます。
- アメリカンコッカースパニエル
- イングリッシュコッカースパニエル
- グレートデーン
- ゴールデンレトリバー
- ダルメシアン
- ドーベルマン
- ベドリントンテリア
- ボクサー
- ラブラドールレトリバー
拡張型心筋症の好発犬種は、ドーベルマン、ボクサー、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、グレート・デーン、アメリカン・コッカー・スパニエルなどが挙げられます。
フィラリア症は感染症であるため、全犬種で見られます。
慢性肝炎の好発犬種は、ベドリントンテリア、ドーベルマン、ラブラドールレトリバー、ダルメシアン、アメリカンコッカースパニエル、イングリッシュコッカースパニエルなどが挙げられます。
犬の「お腹が膨れている(腹水)」症状の予防方法について
拡張型心筋症
拡張型心筋症は、タウリン欠乏などの栄養性の原因が示唆されていますが、これに関しては食餌の栄養バランスを適正に保つことにより、栄養性に発症する拡張型心筋症のある程度の予防効果を期待出来るかもしれません。
フィラリア症
動物病院で処方される駆虫薬で予防できます。フィラリア駆虫薬には、1カ月ごとに投与するものや1年の間効果が持続するものがあります。
慢性肝炎
早期発見・早期治療をおこないます。
犬の「お腹が膨れている(腹水)」症状の治療方法について
利尿剤を投与します。
腹水のコントロールには、利尿剤を投与します。腹水の程度によって利尿剤の種類や量を調整します。
消化管の運動性を妨げるほどの重度な腹水貯留が見られる場合には、腹腔穿刺によってゆっくりと腹水を抜去します。