猫の膵炎について
膵臓ってどんな臓器?
膵臓は、胃と十二指腸に挟まれた細長い臓器で、内分泌作用と外分泌作用という二つの働きがあります。
内分泌作用は血液中の血糖値の濃度を調節するインスリンやグルカゴンを分泌します。
外分泌作用は消化に必要な膵液を作り出して腸に送ります。膵液にはタンパク質、炭水化物、脂肪といった栄養素を分解する消化酵素(トリプシン、アミラーゼ、リパーゼなど)が含まれており、十二指腸へ送られると栄養素の分解や、胃酸で酸性になった食物を中和したりして、腸での消化活動をスムーズにする働きをしています。
猫の膵炎ってどんな病気?
猫の膵炎はまだまだ分かっていないことも多いのですが、基本的に人間の膵炎と同じ病態だと考えられています。膵臓の酵素が漏れ出してしまい、それが活性化することで細胞が傷ついたり炎症が引き起こされるという流れです。それにより膵臓の内部に線維化のような慢性的な変化が生じて、膵臓の分泌機能が低下してしまいます。膵臓の線維化は肝臓でいうと肝硬変のようなイメージです。また、猫では「三臓器炎」と言って腸炎や胆管炎と関連していることも分かっています。また、糖尿病の猫の約50%に慢性膵炎も併発しているとされています。さらに膵炎で急激に食欲がなくなってしまうと、肝リピドーシスという病気を併発することがあります。猫の膵炎自体は膵臓の外分泌機能に関わる病気ですが、膵臓の内分泌や、肝胆道系や腸管など近隣の臓器の病気にも関連しているのです。
症状は?
膵炎の特徴的な症状は嘔吐や腹痛、下痢などですが、こういった症状がなくて何となく元気や食欲がないだけ、ということも多いです。血液検査では、炎症が起きたときの反応として白血球数が増加したり、SAAという炎症マーカーが高くなることがあります。肝酵素が高くなったり、黄疸が出ることもあります。
症状は?
症状の項でも触れたように、猫の膵炎は特徴的な症状が出ないこともあるために、非常に診断が難しい病気です。血液検査の数値の変化が出ていないか、腹部超音波検査で膵臓に画像上の異常がないかを調べます。また、猫膵リパーゼ免疫活性(fPLI)を測定することも有用です。軽度な膵炎の場合はあまり異常が出ないこともありますが、中程度から重度の膵炎の場合、ほぼ確実に検出できます。
治療は?
これをすれば治る、という方法はありません。基本的には対症療法を行うことになります。治療の中心は点滴治療、制吐薬の使用、栄養療法、痛み止めです。
点滴治療は膵臓と全身の循環を維持して改善することが目的で、脱水の程度や下痢・嘔吐といった症状に応じて行います。
嘔吐は体力を奪ってしまい、衰弱が進行する可能性があるため、嘔吐がある場合は制吐薬を使用します。膵炎と診断されたら嘔吐がなくても制吐薬を使用します。
治療の中でも栄養療法は特に重要です。特に猫の場合、食べないことで全身状態が悪化してしまうだけでなく、肝リピドーシスを併発してしまう可能性があるためです。そのため、とにかく吐き気を抑えて食べさせるようにします。猫が自分から食べず、飼い主さんが口に入れて食べさせることもできないようであれば、チューブを設置してそこからフードを投与します。代表的で簡単なのが鼻カテーテルで、鼻の穴からチューブを入れておきます。基本的に麻酔をかけずに設置することが可能です。
猫の場合、痛みがあるかどうかは分かりにくいのですが、膵炎という病気自体は人でも犬でも痛みがあることが分かっていることから、猫でも同じように考えて積極的に痛み止めを使用します。
ステロイド剤については議論が分かれるところですが、個人的な印象としては慢性膵炎に対しては非常によく効く薬です。
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