猫の食事について
食事は健康に生きることと直結している
植物は、太陽光を浴びて光合成をすることで、生きていくエネルギーを得ることができます。そのため、食事をする必要がありません。食虫植物は食事をするではないかと思われる方もいるでしょうが、彼らも、エネルギーは光合成により得ており、それ以外に植物が必要とする窒素やリンなどの栄養素を取得できない土地に生育しているため、その補給のために虫を捕獲し、栄養素を摂取するようになったのです。
植物とは異なり、動物は光合成ができません。そのため、生きていくためのエネルギーも、エネルギー以外に必要とする栄養素も、すべて食事から摂取する必要があります。つまり、良い食事をすれば健康に生きていくことができますが、間違った食事を続けていると、健康な生活を維持することができなくなるのです。
猫も私たち人も、同じ哺乳動物です。しかし、習性や体の構造が異なるため、食事の仕方や必要な栄養素については、似ている点も多いのですが、異なる点もあるのです。そのため、飼い主さんが良かれと思って与えている食餌内容や食べさせ方が、愛猫にとっては必ずしもベストなものだとは限らないかもしれません。
今回は猫の食べ方(食事の仕方)や必要な栄養素について説明しますので、愛猫の食事について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
猫の食事の仕方
今回は、出生時から離乳直後までの時代は対象外とし、成熟した猫を対象に、その食べ方の特徴についてご紹介します。
猫への給餌方法には、完全自由摂取方式、時間制限給与方式、質的制限給与方式などがあります。完全自由摂取方式とは、猫が1日に必要とする量よりも多めのフードを用意し、猫が自由にいつでも食べられるようにしておく方法です。時間制限給与方式とは、1日に数回、決まった時間にフードを食べさせる方法です。この場合、1回の給与時間は最大30分程度です。質的制限給与方式とは、あらかじめ決めておいたフードを、一定量だけ与える方法で、1日の給与回数は1〜3回程度です。
完全自由摂取方式で猫の食べ方を観察した結果として、1日における猫の食事回数は、夜間も含めて10回以上に及ぶことも珍しくなく、1回あたりの摂取量も多くなかったという報告があります。我が家の猫は、質的制限給与方式ですが、1日の給与回数は1回で、1日中いつでも食べたい時に食べられるという方式で給餌しています。今まで一緒に暮らしてきた猫たちは、いずれも少しずつ何回も食事をしていますので、この報告通りです。
また、この報告の中には、猫の食事に対する嗜好あるいは選択性は小さく、しかも同一のフードを長期間にわたって採食することはあまりみられないとあります。再び我が家の猫たちの話になりますが、確かにあれもこれもなんでも食べるということはなく、好きなフードというのが決まっていました。しかし、その好きなフードを何ヶ月か続けて与えていると、ある日突然食べなくなってしまい、新たに食べてくれるフードを探さなければならないということの繰り返しでした。特に、今一緒に暮らしている猫は慢性腎不全のため、療法食という限られた範囲の中で、飽きないように今回はA社のフード、飽きたらB社のフード、また飽きたらA社のフードに戻すといった感じでフードを選んでいます。
これらのことを考えると、猫への食事の与え方としては、1日に2〜3回の頻度に分けて、少量ずつ食べさせる、そしてフードは、その猫が好むものをいくつかローテーションしながら与えるというのが、理想的なのではないでしょうか。特に、いくつかのフードをローテーションさせるというのは、特定の栄養素に偏らない食生活を確保するためにも、良い方法だと言えるでしょう。
猫の栄養学
今回は、人や犬と比べて、特に猫はフードから直接摂取しなければならないと言われている代表的な栄養素の話を中心に説明します。栄養素とは、生命活動に必要な物質のことです。栄養素はフードとして摂取され、消化管内でさまざまな消化酵素により分解され、体内に吸収されます。消化吸収された栄養素は、体を構成したり、体温維持などのエネルギーの供給源となったりします。そのために必要な栄養素は五大栄養素と呼ばれています。具体的には、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルです。
たんぱく質は、主に筋肉、酵素やホルモンとして体内に存在します。そして、たんぱく質は複数のアミノ酸から構成されています。これらのアミノ酸は、動物の生命活動に必要なものなのですが、体内で合成できるものとできないものがあります。体内で合成できないものについては、フードとして摂取しなければなりません。この、フードとして摂取しなければならないアミノ酸を必須アミノ酸と言います。人、犬、猫などで共通する必須アミノ酸が多いのですが、微妙な違いがあります。それは、アルギニンとタウリンです。いずれも、人にとっては必須アミノ酸ではありません。成長期の犬にとってはアルギニンは必須アミノ酸ですが、成熟してしまうと体内で合成することができるようになります。しかし、猫にとっては、アルギニンもタウリンも、必須アミノ酸となります。
アルギニンが不足すると、たんぱく質の分解によって生じたアンモニアが尿素へと分解されなくなるため、猫はアンモニア血症になってしまいます。また、タウリンが不足すると、網膜細胞の形成が不完全となってしまい、光線に対する明暗反応に対応ができなくなり、いずれは失明することになります。さらに、タウリンをあまり含まないドッグフードを長期間食べ続けていた猫は、拡張型心筋症を発症することが多いという報告もあります。アルギニンは畜肉に、タウリンはマグロやサンマなどに多く含まれています。
脂質は、エネルギー源の他にも、脂溶性ビタミンの運搬や必須脂肪酸の供給源としても重要です。脂質が消化されると、脂肪酸とグリセロールに分解されます。脂肪酸には色々な種類があるのですが、アミノ酸と同じように、体内で合成できるものとできないものがあり、合成できずにフードから摂取しなければならないものを必須脂肪酸と言います。必須脂肪酸にも、動物種によって違いがあります。アラキドン酸です。犬はアラキドン酸を体内で合成できますが、猫はできません。アラキドン酸は脳の伝達細胞を活性化する作用があるため、特に成長期に不足すると学習能力や記憶力に影響があると言われています。アラキドン酸は、鶏卵や豚レバーなどに多く含まれています。
炭水化物は、体内ではグルコースやグリコーゲンとして存在します。エネルギー源としてとても重要な栄養素で、体温維持、筋肉運動に必要なエネルギー源となります。猫は完全肉食性の動物ですが、畜肉にはグルコースがほとんど含まれていないため、供給源としては、穀類や芋類などの植物になることが多いです。手作り食を与える場合でも、魚肉:穀物:野菜=7:2:1の比率が基本になります。
ビタミンは、前述の3栄養素と比べると、必要量はごくわずかにすぎません。しかし、代謝の調節にとても重要な役割を果たすため、とても大切な栄養素の一つです。猫は、人や犬と異なり、緑黄色野菜に含まれているβカロチンをビタミンAに転換することができないため、ビタミンAも、直接フードから摂取する必要がある点に、注意が必要です。ビタミンAは、豚・鶏レバーや鶏卵、乳製品などに多く含まれています。
ミネラルも、ビタミンと同じく必要量がわずかですが、生理作用に重要な栄養素です。猫の場合、人と比べると体重あたりの必要ミネラル量が数倍から数十倍高いという特徴があります。中でもカルシウムとリンは必要量が多いミネラルです。しかし、フードのカルシウムとリンを有効に機能させるためには、カルシウム:リン=1:0.8の比率が必要です。リンの過剰給与は、他のミネラルの吸収を阻害したり、骨からのカルシウム放出を増やしたりしますので、注意が必要です。
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