仔犬の先天疾患、肝臓の病気
肝臓について
〇肝臓の働き
肝臓は栄養素の代謝や毒物の分解を行う臓器です。糖分は細胞を動かすエネルギー源として良く知られていますが、蛋白質や脂質はそのままではエネルギーとして利用できません。代謝を行うことで、これらの栄養素は細胞が利用できるエネルギー源に変化します。
血液中の老廃物や体外から吸収した異物は、細胞に対して毒性を持ちます。肝臓はこれらの毒物を分解し、排出する役割を持ちます。分解された毒物は、肝臓から生成される胆汁酸と混ざり、胃の直下にある十二指腸から排出されます。
〇門脈とは?
食物は唾液や胃液、膵液などの様々な消化液による分解を受け、吸収に適した栄養素に変化します。栄養素は小腸から吸収され、肝臓に運ばれ代謝されます。同様に、全身の細胞から老廃物を受け取った血液も肝臓に運ばれます。これらの血液が流入する太い血管のことを門脈と呼びます。
肝臓の先天性疾患
〇小肝症
先天性疾患における小肝症は、肝臓が標準より小さい状態を指します。後述する門脈シャントや肝内微小血管異形成などの先天性疾患が原因の場合もありますが、個体差の範疇であり病気としての症状をほとんど伴わない場合もあります。
〇門脈シャント
門脈に肝臓を迂回する側枝(シャント血管)が存在する状態を門脈シャントと呼びます。また、明確なシャント血管は存在しないが、肝臓の内部に細いシャントが存在する状態を肝内微小血管異形成と呼びます。代謝・分解されるはずだった栄養素や毒物が、シャントを通じて全身を循環するため、削痩や肝性脳症(肝臓でアンモニアが分解されないことによる神経症状)などの命にかかわる症状がみられることがあります。
肝臓の先天性疾患の症状
〇家庭で気が付くことができる症状
肝疾患には、栄養素を代謝できないことによる症状と、毒物が分解できないことによる症状があります。前者には身体が大きくならない、痩せている、低血糖などの症状が含まれ、後者には食後や運動後の嘔吐、食欲不振、運動を嫌がる、神経症状などの症状が含まれます。
〇動物病院で行う検査
肝疾患の疑いのある子犬に対して、血液生化学検査と画像検査を行うことで肝疾患を見つけ出します。血液生化学検査では肝細胞が破壊されたときに放出される酵素(ALT【GPT】、AST【GOT】)と、肝臓の異常に際して誘導される酵素(ALP、GGT)を測定します。この中でALPは正常な状態で成長期に高値を示します。
画像検査ではエコー検査やX線検査、場合によってはCTやMRIを使用します。肝臓のサイズや、門脈のサイズ、シャント血管の有無などを検査します。
肝臓の先天性疾患の維持・治療
※ここでは積極的な治療が必要な門脈シャントについて述べます。
〇食事療法
門脈シャントの犬では、肝臓をはじめとした全身臓器のエネルギー不足を解消しながら、同時に、蛋白質などの栄養素の代謝産物であるアンモニア(肝性脳症の原因)の生産を抑える必要があります。日々の食事として与えている総合栄養食でこれを実現することはできません。餌の量(エネルギー)を増やすと、蛋白質量も増えてしまうからです。気持ち悪さで食欲がないという点もエネルギー量を増やす障害になります。したがって、食事療法食(獣医師の処方が必要な特別食)を使用した食事療法が選択されることが多いです。肝疾患用の処方食は高エネルギー、低蛋白質などの特徴を持ち、門脈シャントの犬が必要とする栄養バランスを備えています。
〇外科療法
シャント血管には肝内にできるものと肝外にできるものがあります。基本的には肝外のシャントのみ認められる場合、外科的な治療を行うことができる可能性があります。外科療法にはシャント血管を結紮する方法と、コイルで塞いでしまう方法があります。これらの術式はCTなどの高度な撮影機器を使用して、シャント血管の全貌を確認しないと行うことが出来ず、加えて、シャント血管を全てなくしてしまえばいいものではないという難しさも併せ持ちます。シャント血管を結紮することで、それまで少ない血流しか流れていなかった肝臓に一度に大量の血液が流れ込み、キャパシティを超えてしまう危険性があるからです。そのため門脈シャントの外科手術を行うことができる病院は、二次診療を行っている一部の病院に限られています。
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