「ペットに財産を相続させたい」という想いをかなえる方法とは?
動物法務士
齊藤学
[記事公開日] [最終更新日]
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「ペットに財産を遺したいけど、良い方法はないのか」と、思案される方が増え
ています。しかし「相続」について定めている法律(民法)では、ペットに直接
財産を遺す方法がありません。財産を「ペットに相続させる」ことは、民法とい
う法律が作られた当時において、全くの想定外だったからです。
では、なぜ現代の私たちはペットに財産を遺したいと思うようになったのでしょ
うか。まずは時代背景と文化を確認し、ペットに財産を相続させたいと願うこと
が特別なものでないことを確認してみます。その上で、“適法”にペットに財産を
相続させる手段として、「負担付遺贈」・「ペットのための信託」をご紹介したいと
思います。
総務省が平成27(2015)年の国勢調査の結果を発表したとき、一部のマスコミが
ある事実を扇情的に報道しました。その事実とは、年少人口(15歳未満)よりも、
ペットとして飼われている犬・猫の頭数の方が多いというものです。
具体的には、15 歳未満人口の1588万7千人対して、犬と猫の飼育頭数は1,979
万1千頭(犬:991万7千頭、猫:987万4千頭)とされています(「一般社団法
人ペットフード協会」調べ)。
この数字から、日本には子どもの数以上のペットが飼われており、その存在意義
が高まっていることがうかがわれます。目まぐるしく進化発展する情報化社会に
おいて、人どうしのコミュニケーションにおけるストレスは、より複雑に、より
難化しています。そのような時代だからこそ、ペットの「コンパニオン・アニマ
ル」としての存在価値が、益々高まっているように思えるのです。愛犬・愛猫の
死を迎え、「ペットロス」に苦しむ飼い主がおられるのも、そのような時代の象徴
ではないでしょうか。
そして現代は、日本社会がちょうど熟成期を迎えている時期です。「成長」から「熟
成」の段階に移ったのです。世界初の超高齢社会(総人口のうち65歳以上の高齢
者が占める割合が21%)として、「より多く、より高く」と物質的・数値的な向上
を目指すのではなく、「より快適に、より幸せに」という情緒的な向上を目標とし
ている時代になりました。
だからこそ、「心の幸せ」を与えてくれるペットの存在価値が、日本において過去
にないほどの高まりをみせていると思えるのです。
このようにみてくると、「ペットに財産を相続させたい」という想いは、“子ども”
に対する愛情となんら変わらないといえます。同じです。ペットは飼い主の方に
とって、大切な“子ども”であり、家族だからです。人間と違って、独立して生
計を立てることができない以上、もしもの時に備えておこうと考えることは、飼
い主としては、当然のことなのです。
ペットに財産を相続させる方法として、従来から取られている方法が、「負担付遺贈」です。飼い主の方が事故や急病で亡くなるという万が一の事態に備えて、「ペットの世話(負担)」を条件に財産を遺すのです。具体的には、負担付遺贈するという内容を遺言として残すことが必要になります。この方法によるポイントは、あくまでも「ペットの世話が条件」となることです。ペットの世話ができなければ相続できないことになりますから、遺産をもらうためには必ずペットのお世話をする必要がでてきます。
ただしこの方法には、問題点が三つあります。
一つ目は、「ペットの世話(負担)」が嫌だからといって、遺贈を断るというケースが考えられます。
二つ目は、本当に「ペットの世話(負担)」をしているかどうかは、誰にもわからないということです。ペットの世話をすると言って、遺産をもらっておきながら…、ということも考えられなくはないのです。
三つ目は、飼い主の方が長期入院や要介護状態になったときの問題です。入院期
間や介護期間には、遺言書では全くもって対応できません。
10年ほど前に「信託法」が改正され、個人間で「信託契約」を締結しやすくなりました。そこで“信託”の仕組みを使ってペットに財産を遺そう、という発想が日本でも広がりました。「日本でも」と表現しましたが、ペットに財産を遺す方法として、欧米の場合には「信託」を使うことが普通になっているからです。
このペットのための信託というのは、飼い主の方(委託者)がお子さんなど(受託者)に、ペットの飼養を託すのです。その際にペットのための費用も託します。託した費用は、ペットのためにしか使えません。現実問題として、お子さん(受託者)がペットを飼うことができないという場合もあるかもしれません。そのような場合は、お子さん(受託者)から専門施設に預けることも可能です。その専門施設も、飼い主の方が満足できるところをあらかじめ探しておき、「〇〇〇ホーム」に預けて欲しいと指定することができます。
大事なことは、約束違反が起きないように、約束内容を契約書として形にして残すことです。この約束をより強固にするために、契約書を公正証書で作成した方が安心できます。公正証書というのは、公証人に関わってもらうことで、裁判の判決と同等の効力を持つものです。
この信託による方法のメリットは二つです。
一つは飼い主の方が長期入院したり要介護状態になったりしたときにも対応できるということです。負担付遺贈での問題点をクリアーできます。
二つ目は、信託監督人を配置することで、お子さんなど(受託者)が信託された財産をペットのために適正に使っているかどうかを、見守ることができるのです。やはり負担付遺贈で問題だった点をクリアーできるのです。
非常に活用のしがいがある信託ですが、現状気を付けるべき点もあります。それ
は、信託法を理解するのが少々難しいということです。この法律における裁判例
も少なく、法律の運用自体にそれ相応の注意が必要になります。そのため、ペッ
トのための信託について知識と経験のある専門家のアドバイスを、必ず受けるこ
とをお薦めします。
ています。しかし「相続」について定めている法律(民法)では、ペットに直接
財産を遺す方法がありません。財産を「ペットに相続させる」ことは、民法とい
う法律が作られた当時において、全くの想定外だったからです。
では、なぜ現代の私たちはペットに財産を遺したいと思うようになったのでしょ
うか。まずは時代背景と文化を確認し、ペットに財産を相続させたいと願うこと
が特別なものでないことを確認してみます。その上で、“適法”にペットに財産を
相続させる手段として、「負担付遺贈」・「ペットのための信託」をご紹介したいと
思います。
ペット(家族)のために、もしものときに備える
総務省が平成27(2015)年の国勢調査の結果を発表したとき、一部のマスコミが
ある事実を扇情的に報道しました。その事実とは、年少人口(15歳未満)よりも、
ペットとして飼われている犬・猫の頭数の方が多いというものです。
具体的には、15 歳未満人口の1588万7千人対して、犬と猫の飼育頭数は1,979
万1千頭(犬:991万7千頭、猫:987万4千頭)とされています(「一般社団法
人ペットフード協会」調べ)。
この数字から、日本には子どもの数以上のペットが飼われており、その存在意義
が高まっていることがうかがわれます。目まぐるしく進化発展する情報化社会に
おいて、人どうしのコミュニケーションにおけるストレスは、より複雑に、より
難化しています。そのような時代だからこそ、ペットの「コンパニオン・アニマ
ル」としての存在価値が、益々高まっているように思えるのです。愛犬・愛猫の
死を迎え、「ペットロス」に苦しむ飼い主がおられるのも、そのような時代の象徴
ではないでしょうか。
そして現代は、日本社会がちょうど熟成期を迎えている時期です。「成長」から「熟
成」の段階に移ったのです。世界初の超高齢社会(総人口のうち65歳以上の高齢
者が占める割合が21%)として、「より多く、より高く」と物質的・数値的な向上
を目指すのではなく、「より快適に、より幸せに」という情緒的な向上を目標とし
ている時代になりました。
だからこそ、「心の幸せ」を与えてくれるペットの存在価値が、日本において過去
にないほどの高まりをみせていると思えるのです。
このようにみてくると、「ペットに財産を相続させたい」という想いは、“子ども”
に対する愛情となんら変わらないといえます。同じです。ペットは飼い主の方に
とって、大切な“子ども”であり、家族だからです。人間と違って、独立して生
計を立てることができない以上、もしもの時に備えておこうと考えることは、飼
い主としては、当然のことなのです。
ペットに財産を相続させる方法①負担付遺贈
ペットに財産を相続させる方法として、従来から取られている方法が、「負担付遺贈」です。飼い主の方が事故や急病で亡くなるという万が一の事態に備えて、「ペットの世話(負担)」を条件に財産を遺すのです。具体的には、負担付遺贈するという内容を遺言として残すことが必要になります。この方法によるポイントは、あくまでも「ペットの世話が条件」となることです。ペットの世話ができなければ相続できないことになりますから、遺産をもらうためには必ずペットのお世話をする必要がでてきます。
ただしこの方法には、問題点が三つあります。
一つ目は、「ペットの世話(負担)」が嫌だからといって、遺贈を断るというケースが考えられます。
二つ目は、本当に「ペットの世話(負担)」をしているかどうかは、誰にもわからないということです。ペットの世話をすると言って、遺産をもらっておきながら…、ということも考えられなくはないのです。
三つ目は、飼い主の方が長期入院や要介護状態になったときの問題です。入院期
間や介護期間には、遺言書では全くもって対応できません。
ペットに財産を相続させる方法②ペットのための信託
?10年ほど前に「信託法」が改正され、個人間で「信託契約」を締結しやすくなりました。そこで“信託”の仕組みを使ってペットに財産を遺そう、という発想が日本でも広がりました。「日本でも」と表現しましたが、ペットに財産を遺す方法として、欧米の場合には「信託」を使うことが普通になっているからです。
このペットのための信託というのは、飼い主の方(委託者)がお子さんなど(受託者)に、ペットの飼養を託すのです。その際にペットのための費用も託します。託した費用は、ペットのためにしか使えません。現実問題として、お子さん(受託者)がペットを飼うことができないという場合もあるかもしれません。そのような場合は、お子さん(受託者)から専門施設に預けることも可能です。その専門施設も、飼い主の方が満足できるところをあらかじめ探しておき、「〇〇〇ホーム」に預けて欲しいと指定することができます。
大事なことは、約束違反が起きないように、約束内容を契約書として形にして残すことです。この約束をより強固にするために、契約書を公正証書で作成した方が安心できます。公正証書というのは、公証人に関わってもらうことで、裁判の判決と同等の効力を持つものです。
この信託による方法のメリットは二つです。
一つは飼い主の方が長期入院したり要介護状態になったりしたときにも対応できるということです。負担付遺贈での問題点をクリアーできます。
二つ目は、信託監督人を配置することで、お子さんなど(受託者)が信託された財産をペットのために適正に使っているかどうかを、見守ることができるのです。やはり負担付遺贈で問題だった点をクリアーできるのです。
非常に活用のしがいがある信託ですが、現状気を付けるべき点もあります。それ
は、信託法を理解するのが少々難しいということです。この法律における裁判例
も少なく、法律の運用自体にそれ相応の注意が必要になります。そのため、ペッ
トのための信託について知識と経験のある専門家のアドバイスを、必ず受けるこ
とをお薦めします。
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