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「猫は犬より飼いやすい」というイメージの大きな誤解

愛玩動物飼養管理士
松尾猛之
[記事公開日]  [最終更新日]
犬を飼おうか、猫を飼おうかと考える時に「どっちが飼いやすい?」と考えてしまう方に向けて、人間側の損得だけを考えて選んではいけない理由の説明と、飼い主にとって本当に必要な、ペットを飼うことに対する心持ちについて解説いたします。
[ 目次 ]
「猫は犬より飼いやすい」というイメージの大きな誤解
「犬と猫、どっちが飼いやすい?」と聞かれて猫を挙げる人の理由に多いのは「犬より飼いやすそう」とか「猫のほうがラクだから」といった、飼い主の負担の少なさを想像したもの。果たして、本当にそうなのでしょうか?

イメージは経験則より「なんとなく」

日本ペットフード協会が毎年実施している「全国犬猫飼育実態調査」で、猫の推計飼育頭数(952.6万頭)が犬(892万頭)をはじめて上回ったのは2017年。以降も猫の増加と犬の減少が継続しており、2019年の調査時点では100万頭近い差(猫:977.8万頭、犬:879.7万頭)まで広がりました。

ペットを飼ってみたいと思った時、一般的にはまず【犬にしようか、猫にしようか】の選択を考えることになりますが、猫を選ぶ世帯でよく聞かれるのは「犬より猫のほうが飼いやすそうから」という声。単刀直入に聞こえますが、どこか曖昧に聞こえてしまうのもまた事実で、一体何をもって「猫は飼いやすい」と思ったのか、という疑問が残ります。

犬と猫に対する印象を飼育に特化して尋ねた調査は、調べた限り見つかりませんでしたが、前述の「全国犬猫飼育実態調査」において、猫が犬を上回った2017年以降の調査結果を報じた各媒体の記事を追って閲覧したところ、大学教授や専門家などの多くが、散歩の必要がない、単身世帯やワンルームでも飼える、費用の安さなど「犬と比べた負担の少なさ」が主な理由ではないかというコメントを出していました。

決して「飼いやすい」のみに理由が偏っているわけではないと思われますが、単身や共働きの世帯が増えたことや住環境の変化といったライフスタイルの移り変わりが激しい中、ペットにするなら犬より猫のほうが対応しやすいのではないか、と考える風潮の強さが「猫は犬より飼いやすい」という評価につながっているのであろうと考えられます。

出自を問わずネット上に流れている情報を拾ってみても、(犬より)手間やお金が掛からなさそう、世話が簡単そうといった、あくまで個人の推測で書かれているものが多く、実際の経験則よりも「なんとなく」のイメージが先行しているようにも感じます。正しくは「なんとなく、犬より猫のほうが飼いやすそうだから」という表現になるでしょうか。

「猫は犬より飼いやすい」というイメージの大きな誤解

犬が「飼うのが大変」と思われている理由(例)

●毎日散歩に連れて行かなければならない
犬にとっては外を歩くことが健康維持やリフレッシュにつながるため、毎日の散歩は欠かせません(小型犬など、室内飼育が可能とされる犬種もあります)。

●登録手続きや予防接種が面倒だ
犬を迎え入れた世帯は「居住地自治体への登録」と「年に1回の狂犬病予防接種」を行わなければいけないと、法律で決められています。

●何かと支出が多い
散歩だけでもリードや首輪(ハーネス)、マナーグッズなど。季節や天候によっては犬服、レインコート、シューズなど用意の幅が広がります。またトリミングサロンやシッターなどのサービス、シニア期の介護に要する費用についても考えておかねばなりません。

●どの犬種を選べば良いか分からない
2~3kgのチワワと、30㎏を超えるゴールデン・レトリーバー。同じ「犬」に変わりはありませんが、ごはんの量や寝床から注意すべき病気に対するケアまで、飼い方や暮らし方は大きく異なります。

「猫は犬より飼いやすい」というイメージの大きな誤解

猫が「飼いやすい」と思われている理由(例)

○ずっと家の中にいても問題ない
猫の脱走防止柵なども数多く販売されているように、猫については近年「完全室内飼育」が推奨されており、屋内で安心して過ごすことが猫にとってはこの上ない幸せと考えられています。

○ひとりで留守番ができる
完全室内飼育は「留守を預けられる」メリットにもつながります。1泊程度の旅行なら、愛猫に自宅をまかせても大丈夫な場合が多いようです。

○基本、ほっといても良さそうだ
猫はマイペースな性格に加えて昼も夜も寝ているというイメージを持たれているようで、自分から寄ってこない限りは放置でいい、と考える飼い主も少なくありません。

○身体をきれいにする必要がない
猫はきれい好きな動物というイメージもあります。一生懸命に毛づくろいをする姿を見ると、飼い主の手は要らないとつい考えてしまいますね。

猫と暮らすのも、何かと大変なのです

ここまで、猫を飼う立場にとって都合の良いことばかりを挙げてきましたが、猫との暮らしの中でも飼い主にはやるべきお世話が生じます。給餌に水の交換、トイレ掃除は日課です。ごはんもトイレ砂も消耗品ですから定期的な購入が必要となりますが、猫にも好みがありますので、気に入ったごはんや砂が見つかるまで苦労するかもしれません。

部屋が狭くても、高い所に登るのが好きな猫のためにあるのがキャットタワーです。愛猫が気に入ってくれれば嬉しいことですが、喜びすぎて夜中にタワーをドタバタと昇り降りしてはしゃぎ回っても、安眠妨害だと怒ってはいけません。

猫じゃらし、ベッド、脱走防止柵、ケガや病気の通院費……長い目で見れば猫を飼う、育てるのにもしっかりお金は掛かります。留守番ができず飼い主を探してずっと鳴いている猫、毛づくろいをせずに汚いまま過ごしている猫も、現実としているのです。

ラクをした「ツケ」は、必ず回ってきます。

犬の飼い主は散歩によって、毎日のように愛犬とコミュニケーションを取ることができますが、猫の飼い主は普段、どこまで愛猫の姿を観察できているでしょうか。それこそ、ほとんど寝ている姿しか見ていないという場合には、ちょっとした様子の変化にもなかなか察することができず、体調の異変や病気に気づくことが遅れてしまうなどの大きなリスクにつながる恐れもあります。

猫にも「寂しい」という感情はあります。手間を掛けなくていい、ほっといてもいいと飼い主のエゴで考えることは、愛猫への愛情を怠ることだと思わねばなりません。ラクをして暮らしてきた「ツケ」は必ず飼い主に回ってくると肝に銘じて、おもちゃやじゃらしで遊ぶ、ブラッシングをする、無理なら遠目からでも様子を見るなど、できる範囲で愛猫と習慣的にコミュニケーションを取る努力が大切です。

「猫は犬より飼いやすい」というイメージの大きな誤解

最後に ~ 手間と愛情にあふれてこそのペットライフ

猫とて意思を持ち、それぞれの個性もある生き物ですから、「猫は犬より飼いやすい」というイメージだけで迎え入れようとするのはいかがなものかと感じます。むしろ飼いやすさ以上に深く考えていただきたいのは、犬も猫も他の動物も、動物愛護法で定められている「終生飼養」を果たすためには、飼い主による献身的なお世話が不可欠だということです。

人間とペットが同じ家で、そして同じ目線で有意義な日々を過ごせるかどうかは、ペットの暮らしのためにいろんな手間を掛けることを「負担」と考えるか、「愛情」と考えるか ―― その違いではないでしょうか。

生き物の命を育て、元気で長生きできるようにお世話することは、どんな動物でも簡単ではありません。これからペットを家族にと思っておられる方には、目の前の犬や猫に、その終生まで責任を持って手間と愛情を掛け続ける覚悟があるかどうかを、まずはしっかり考えてほしいと思います。

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