変性性脊髄症について
変性性脊髄症はゆっくり進行していく病気であり、現在は有効な治療法は見つかっていません。後ろ足の麻痺から始まり、前足の麻痺、そして呼吸筋の麻痺へと進行していきます。残念ながら、発症後は約3年で亡くなってしまうとされています。症状は椎間板ヘルニアと似ていますが、手術で治すことはできません。
今回は変性性脊髄症についての基本的な知識、発症してしまったら現時点でおすすめできるケアの方法などをご紹介します。
原因は?
免疫介在性、遺伝性、代謝性など様々な説が提唱されていますが、まだ確定はしていません。一番有力なのは遺伝子の変異説であり、変性性脊髄症にかかった犬では、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)遺伝子が変異を起こしていることが知られています。ちなみにこのSOD1遺伝子の変異ですが、ヒトでは筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気を引き起こすことが知られています。
コーギー以外もこの病気になるの?
好発犬種としては、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ボクサー、ラブラドール・レトリバー、シベリアン・ハスキー、コリー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどの大型犬です。発症年齢は犬種によって異なり、大型犬は5歳以上(平均8歳)であるのに対し、ウェルシュ・コーギーは約10歳です。オスとメスでの違いはないとされています。
症状は?
最初に現れる症状は、通常は後ろ足のどちらか一方の運動失調です。「なんとなく大股で歩くようになった」と感じたり、たまに後ろ足が交差していたりする程度の変化であることが多いです。こういった症状がとてもゆっくり進行していくため、この時点で発見されることは稀です。
片方の足に出ていた後ろ足の運動失調は、やがて左右両足でみられるようになります。歩くときにふらついたり、滑りやすい場所で後ろ足が開いてしまう、などの症状が目立つようになります。多くのケースでこの時期に動物病院を受診されると思います。やがて後ろ足に体重を乗せることが難しくなり、ふらつきが進行して、歩くときに爪が擦れる音が目立つようになります。
さらに進行していくと、後ろ足に体重を乗せられなくなり、引きずって歩くようになります。そして前足にも症状が出るようになります。最初は後ろ足と同じような運動失調が出ますが、やがて前足にも体重を乗せることが難しくなり、立ち上がることができなくなります。おしっこやウンチを漏らすこともあります。
やがて呼吸に異常がみられるようになります。最初は呼吸のリズムが乱れるようになり、徐々に呼吸しづらくなります。
変性性脊髄症では、初期から末期まで痛みが出ることがありません。また、意識障害が出ることもありません。
症状の進行のスピードですが、ウェルシュ・コーギーよりも大型犬の方が早いとされています。大型犬では発症してから6〜12ヶ月で立ち上がれなくなるのに対し、ウェルシュ・コーギーでは発症してから約3年生存するとの報告があります。
診断方法は?
現在の獣医学では「これをすれば確実に診断できる」という検査はありません。そのため、様々な検査結果から総合的に判断します。そのための検査としては、臨床症状、神経学的検査、画像検査(レントゲン、CT、MRI)、脳脊髄液検査、SOD1遺伝子検査が挙げられます。最終的な確定診断のために必要となるのは病理組織学的検査です。ただし、これは神経組織の検査になるため、生きているうちに行うことができません。
変性性脊髄症になってしまったら?
残念ながら根本的な治療法はまだ見つかっていません。そのため、筋肉の衰えを予防して、症状の進行を遅らせることがケアの目的になります。
①薬、サプリメント
神経系の病気では、酸化ストレスが進行に関係していると考えられています。そのため、変性性脊髄症においても抗酸化作用のあるビタミンやサプリメントが進行の予防に効果があるかもしれません。ステロイドは効果がないため使用しません。
②運動
歩けるうちは積極的に散歩をして、後ろ足の筋肉の萎縮を予防しましょう。可能であれば水泳などもおすすめです。自力で立ち上がったり歩いたりできなくなったら、犬用のカートを装着すれば散歩ができます。
③日常のケア
足や背中、腰の筋肉のマッサージもおすすめです。同時に足の屈伸運動もしてあげましょう。目安は1日2〜3回、10分くらいです。足が弱ってくると肥満では負担が大きくなるため、体重のコントロールは非常に大事になります。足を引きずるようになると爪や指先を地面で擦りむいてしまうことがあるため、靴や靴下で保護します。寝たきりになると褥瘡(床ずれ)ができてしまうことがあります。そのため、敷物は柔らかい素材にしたり、定期的に体位を変えてあげるなどの予防をしましょう。
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