水頭症について
発生のデータについて
水頭症は動物病院では比較的診察する機会の多い病気です。犬では、先天性の水頭症は奇形性の病気の3%、脳の病気全体の5%を占めるというデータがあります。近年では大型犬よりも小型犬、特にトイ犬種と呼ばれる小型の室内飼育犬に人気が集中しているため、その割合はさらに増加していると考えられます。つまり、先天性水頭症はトイ犬種や小型の短頭種に多く認められる病気です。特にチワワ、ヨークシャー・テリア、トイ・プードル、パグ、ペキニーズ、マルチーズ、ポメラニアン、イングリッシュ・ブルドッグ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルといった犬種での発生報告が多いです。
症状は?
生まれたばかりの頃は症状が明らかではないこともよくあります。多くは生後3ヶ月〜半年くらいで水頭症に伴う神経症状が出てきます。お家で生まれた子でなければ、ちょうどブリーダーさんやペットショップからお家に来る時期ですね。逆に、生後1年以上経って初めて症状が出てくるケースは比較的まれです。
先天性水頭症の犬の身体的な特徴は、ドーム状の頭蓋骨をしている、外腹側斜視(左右外側かつ下側を向く斜視)、泉門開存(頭蓋骨の隙間が閉じていない)、発育の遅れです。ただし、こういった特徴がある子が全て水頭症ということではないので、身体的特徴だけで診断を行うことはありません。
症状は、異常が起きている脳の場所によって異なります。典型的な先天性水頭症では、意識障害、行動異常、視覚や触覚などの感覚障害、ぐるぐる回る(旋回)、うろうろ歩く(徘徊)、頭が動く(頭位回旋)、てんかん発作などの症状がみられます。飼い主さんが感じる印象としては、兄弟犬と比べてしつけを覚えられない、怒りっぽい、逆にぼんやりしておとなしい、といったものがあります。
診断は?
先天性水頭症の診断は、身体的特徴や神経症状があるかどうか、そして脳の画像検査で脳室の拡大があるか、他の病気がないかを調べることで行います。画像検査は古くはレントゲン検査が行われていましたが、現在は超音波検査、CT検査、MRI検査などが中心になっています。水頭症以外の病気というのは、脳炎、腫瘤(できもの)、脊髄空洞症などが挙げられます。
治療は?
治療法には内科療法と外科療法がありますが、根本的な治療は外科療法で、脳室ー腹腔シャント(V-Pシャント)の設置です。これは、脳内に過剰に貯まってしまった脳脊髄液を管を使ってお腹の中とつなげ、そこで吸収させるというものです。最初に書いたように、犬の先天性水頭症の多くは脳脊髄液の径路が閉塞することで起こるので、薬を使って脳脊髄液の産生を抑えても根本的な解決にはなりません。しかしながら、外科手術に対する治療反応の程度は個体差がかなり大きく、合併症のリスクも小さくありません。麻酔のリスクもあり、再手術の可能性もあるため、なかなか簡単には決断できない選択肢だと思われます。ただ、既に内科療法をしていたけど反応がみられなかったり、内科療法中に症状の悪化がみられた場合は、手術を考慮すべきでしょう。また、薬の副作用が現れてしまい、長期にわたって内科療法を続けることが難しい場合も同様です。
内科療法は初期治療、神経症状が軽度な場合、外科療法を選択しない場合に適応になります。最も一般的に使用されているのはステロイドです。ステロイドには脳脊髄液の産生を抑える作用があります。ただし、ステロイド自体の副作用にも注意が必要なので、症状の改善がみられたら投与量を減らしていきます。症状が軽度な場合や、ステロイドによって症状がなくなった後の維持のために、利尿剤を使うことがあります。また、水頭症に伴って、てんかん発作が出ることもあります。その場合は水頭症の治療に加えて抗てんかん薬の投与も必要になります。
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