犬の脊髄空洞症について
なりやすい犬種は?
犬では脊髄損傷や脊髄腫瘍に伴って発症する後天性のタイプもありますが、ほとんどが先天性だと考えられており、頚部の脊髄に空洞ができているケースが多いようです。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでは人間のキアリⅠ型奇形という先天的な奇形に合併するタイプと似た所見が認められています。それに対して、ヨークシャー・テリア、チワワ、ポメラニアンなどではそういった所見は認められないことが多いようです。ミニチュア・ダックスフンドでは脊髄空洞症に重度の水頭症を併発していることもあります。
症状は?
犬の脊髄空洞症で最も多い症状は、知覚過敏と痛みです。知覚過敏があると、首や体を掻こうとする行動や、足先をしきりに舐める、仰向けになって背中を床に擦り付けるという行動がみられます。しかしながら、こういった症状は皮膚病などの他の病気と間違われたり、ただの癖として見逃されてしまうことも少なくありません。痛みの症状も、首を痛がる、跛行する、足を挙げるといった分かりやすいものもあれば、触られたり抱っこされることを嫌がるという痛みの場所が分かりにくい場合も少なくありません。
側弯という、背中が曲がる症状も脊髄空洞症では特徴的です。犬では首に側弯が出ることが多いですが、見てはっきり分かるほどの重度になることは少ないようです。
中年齢で足の麻痺がみられることもあり、後ろ足よりも前足の方が症状が重いことが多いです。先天性が多いにも関わらず発症する年齢が遅いのは、脊髄の空洞病変が非常にゆっくり拡大していく場合があることや、脊髄の障害が重度になるまで症状が出にくいということが原因として挙げられます。
これらの症状以外にも、脊髄空洞症に併発する水頭症などの症状として、捻転斜頸、旋回、回転などの前庭障害や発作がみられることもあります。
診断は?
症状や発症の状況、犬種などの情報と神経学的検査の所見などから推測していきます。
画像検査には単純X線検査、脊髄造影検査、CT検査、MRI検査があります。脊髄空洞症は脊髄実質内の病変なので、単純X線検査では診断はできませんが、骨の変形が出ていない側弯を見つけることができます。脊髄造影検査でたまたま診断できることがありますが、あまり有用とはいえません。CT検査は重度に拡大した脊髄の空洞病変は見つけることができますが、軽度だと見つけられません。MRI検査では正確に診断可能なので、症状と神経学的検査、MRI検査の組み合わせが最も確実な診断方法になります。
治療は?
犬の脊髄空洞症は無症状から重度の足の麻痺まで、様々な症状がみられます。また、病変や症状が進行する場合としない場合があります。この病気に対する長期的なデータも少ないため、その子その子で慎重に治療法を決める必要があります。基本的には痛みがあるだけの場合は保存療法を選択して、保存療法があまり効果がなかったり、麻痺が出ていた場合には外科療法を選択することが多いようです。
脊髄空洞症に対して使用する薬は、鎮痛剤、脳脊髄液産生抑制剤、ステロイド剤の3つに分けられます。痛みの症状が軽ければ、鎮痛剤として非ステロイド性消炎鎮痛剤を用います。効果が不十分な場合には、別の薬を使用します。脳脊髄液の産生を抑える薬はいくつかの種類がありますが、いずれも効果が弱かったり、副作用に注意が必要だったりと、デメリットがあります。
保存療法を行っても痛みがコントロールできなかったり、麻痺の症状が進行してしまう場合には外科療法を選択します。外科療法の目的は、脊髄に空洞ができてしまう原因である、脳脊髄液の循環を改善することです。奇形などで脳脊髄液の循環が悪くなっている部分を開く、大後頭孔拡大術は人間の脊髄空洞症でも行われる手術です。人間では手術成績は良いようですが、犬ではこの手術を実施したうちの80%以上で症状が改善されていますが、そのうち25%では再発しています。また、症状の改善が認められたとしても、脊髄の空洞病変は残ったままでした。そのため、犬の脊髄空洞症に対しては、この術式はまだ確立された治療法とは言えないのが現状です。
もう一つの外科療法として、細いチューブを空洞に入れて液体をくも膜下腔に流すという、空洞ーくも膜下腔シャント術があります。この方法は、脊髄空洞症の原因に関わらず効果が期待できます。また、手術直後から空洞内の液体が減少して症状を改善することができます。しかしながら、チューブが詰まってしまい再発してしまったり、チューブ自体による脊髄障害や感染などの合併症が起きてしまう可能性があります。
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