犬の副腎皮質機能低下症の病態と治療法
クッシング症候群は特徴的な症状が多く発見が簡単であるのに対して、副腎皮質機能低下症はとにかく症状があいまいで、見つかりにくいという特徴があります。しかしながら、治療しないと(治療していても)ストレスの影響で突然具合が悪くなることもあり、非常にやっかいな病気です。
副腎ってどんな臓器?
副腎は左右の腎臓のすぐ頭側にある非常に小さな臓器で、重さにして左右それぞれ1グラムくらいしかありませんが、皮質と髄質の2層からできています。そして生命機能を維持するために必要な、様々なホルモンの分泌を行なっています。
副腎皮質からは身体の中で糖分をコントロールしているグルココルチコイド(糖質コルチコイド)、無機イオンという電解質のバランスをコントロールしているミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド)、そして生殖機能に関連する性ホルモンのうち、特にアンドロゲンというホルモンが産生されます。
副腎髄質からは、カテコールアミンであるエピネフリンやノルエピネフリンが分泌されており、身体のストレスに対する調節を行なっています。
副腎皮質ホルモンの分泌は脳内の下垂体という場所でコントロールされています。下垂体から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンの作用で副腎皮質が刺激され、コルチゾールが分泌されるのです。ACTHの分泌量は、脳内の視床下部という場所で作られるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)というホルモンによってコントロールされています。
原因は?
病態により、原発性・二次性・非定型・医原性に分けられます。
原発性副腎皮質機能低下症は、副腎皮質全体が働かなくなってしまう病態です。グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの両方が不足するため、両方の欠乏症がみられます。一般的には自己免疫による副腎皮質の破壊によって起こると考えられていますが、実際には原因不明のようです。犬の副腎皮質機能低下症は90%以上がこの原発性だとされています。
二次性副腎皮質機能低下症は、脳の下垂体という部分の近くにできた腫瘍や梗塞、感染などの影響や、頭部損傷に伴って起こります。こちらの発症率は非常に低いとされています。グルココルチコイド単独の欠乏症を起こし、電解質異常は現れないのが一般的です。
非定型副腎皮質機能低下症は、グルココルチコイド単独の欠乏症を示すタイプです。病気の末期には電解質異常もみられるようになる可能性があります。
医原性副腎皮質機能低下症は、グルココルチコイド製剤(ステロイド製剤)を長い間使っていたり、強い量で使っていて突然使用を中止したり、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の治療の副作用により副腎皮質低下症になるものです。
どんな犬がなりやすい?
この病気は多くの犬種で発生が報告されていますが、プードル、ウェルシュ・コーギー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアなど好発すると考えられています。
また、年齢的には若い子から中年齢くらいでの発生が多いですが、生後2ヶ月〜14歳まで幅広い年齢での報告があり、特に多いのは4〜6歳の間です。
原発性副腎皮質機能低下症は、圧倒的にオスよりもメスでの発生が多く、70%がメスだとされています。特に不妊手術をしていない方が発症率が高いようです。
症状は?
特徴がないのが特徴、というのが副腎皮質機能低下症の症状です。
元気がない、食欲がない、吐く、下痢といった症状が波のように繰り返しみられ、何らかの大きなストレスがかかったときに急性症状が出てしまい動物病院に行く、というパターンが多いようです。この急性症状をアジソンクリーぜと呼びます。アジソンクリーぜと診断された場合、その2週間以上前から何かしらの症状が出ている可能性が高いため、気をつけて様子をみてあげてください。
診断は?
特徴的な症状がないため、症状から推測するということが難しい病気です。
多くの場合、健康診断や体調不良時の血液検査で電解質の異常が見つかることが診断の糸口になります。ミネラルコルチコイドが欠乏することで起こる低ナトリウム血症と高カリウム血症がもっとも重要な特徴になり、しばしば低クロール血症も同時にみられます。低ナトリウム血症と高カリウム血症が同時に起こるため、この2つを比較するナトリウム:カリウム比を調べることで副腎皮質機能低下症を疑うことができます。
他にも血糖値の低下や貧血などの所見がみられることがありますが、どれも特徴的な所見ではないため、副腎皮質機能低下症と診断することはできません。
特徴的な症状はないが何となく体調が悪く、血液検査で上記のような所見がみられた場合は、確定診断のための検査に進みます。確定診断のためには「ACTH刺激試験」という検査を行います。これはグルココルチコイドの分泌を促す薬剤を注射することで、それに反応してグルココルチコイドの数値が変化するかどうかを調べるものです。副腎皮質機能低下症の犬では数値がほとんど変化しないため、その結果で確定診断とします。
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