歯磨きは決定的に猫の寿命をのばす
歯磨きは決定的に猫の寿命をのばす
東京都内にある猫の専門病院の獣医師による愛猫セミナーを受講したことがあります。その時に特に印象に残ったのが、「歯磨きは決定的に猫の寿命を伸ばします」という言葉でした。歯が悪い猫は、健康な歯の猫よりも3年早く腎臓病になるともおっしゃっていました。
基本的に、猫は虫歯にはなりません。人の口の中は弱酸性ですが、猫の口の中はアルカリ性です。虫歯菌は酸性の環境を好むため、猫の口の中では繁殖しづらいのです。それでも、猫の寿命を伸ばすためには歯磨きが大切だということは、その目的が虫歯予防ではないとうことです。では、何の予防をするために歯磨きが大切なのかというと、それは歯周病を予防するためです。
野生の猫は歯磨きなんかしないではないかと思われる方も多いでしょう。野生の猫は歯磨きをしませんが、犬歯で獲物を仕留め、臼歯で獲物の皮、肉を引き裂いて食事をします。つまり、食事をするために歯をフル活用しなければならないのです。これが、歯の自浄作用となっているのです。飼い猫の場合は野生の猫のように歯を使うことがないため、自浄作用の代わりに歯磨きが必要なのです。
バカにしてはいけない歯周病
歯周病とは、歯肉炎(歯茎の部分の病気)と歯周炎(歯茎と歯を支えている骨など歯の周りの病気)の両方を合わせたものの総称です。
3歳以上の猫の約8割が歯周病だと言われています。しかし、その猫たちのほとんどは、元気で食欲があるため、病気であるとは気づいてもらっていない場合が多いのです。しかし、歯周病の正体は、歯垢の中のバイ菌による感染症です。見えている歯の部分ではなく、歯を支えている歯肉や骨などの歯周組織というあまりよく見えない部分(顎)を破壊していく病気なのです。
歯周病も、初期のうちはあまり症状も明確には見えず、猫自身も元気で食欲も旺盛です。しかし、進行していくとバイ菌の一部が体内に入ってしまい、重症化すると心臓、腎臓などの全身に影響を及ぼしてしまう、怖い病気なのです。
具体的に、歯周病の進行を見ていきましょう。
1. 歯垢と歯石の形成
歯の表面に歯垢ができます。これは。口の中にいる細菌群が繁殖した塊です。歯垢は食べかすのように見えますが、そのほとんどが細菌とその細菌が出した毒素や、死滅した細菌などです。歯垢が3〜5日も経過すると、ミネラルが沈着して徐々に歯石に変わっていきます。歯石が歯の表面に沈着すると、その粗い表面からさらに歯垢が付きやすくなって、どんどん歯石の沈着が進んでいきます。
2. 歯肉炎
歯垢の中の菌の影響で、歯と歯肉が接触している部分の歯肉が炎症を起こして、赤く腫れてくるのが歯肉炎です。この段階では、炎症を起こしているのは歯肉だけです。この段階で気づき、治療を始めれば概ね治す事ができます。
3. 悪玉菌の繁殖
歯肉炎が進行すると、歯垢が歯と歯肉の間の溝にも広がっていき、悪玉菌の塊ができていきます。悪玉菌である病原性嫌気性菌は、溝のような環境を好むので、どんどん繁殖して毒素などの副産物を放出します。
4. 歯周炎
悪玉菌や悪玉菌が放出した副産物により炎症がさらに誘発され、歯と歯肉の間の溝が深くなり、病的な歯周ポケットができます。さらに進行すると、歯周ポケットの奥にある歯根膜が破壊され、さらに歯を支えている歯槽骨が破壊されていきます。この状態が歯周炎です。
5. 歯周炎の進行
歯槽骨の破壊が進んで広範囲の歯槽骨が破壊されると、そこには腐った組織(膿)が残ります。歯周ポケットの表面には膿の一部が見えるようになります。この状態が、歯槽膿漏です。ここまでくると、治療で失った組織を回復させることは困難になります。
6. 重度歯周炎の結末
さらに進行すると、悪玉菌や悪玉菌が放出した毒素は歯の周辺組織だけではなく、骨髄に影響して骨髄炎を起こします。そして、毒素は血液と共に身体中に広がっていき、全身に悪い影響を与えます。重度歯周炎になると、顎の破壊が広範囲に及ぶため、歯を支えられるものがなくなり、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
歯周病のサイン
歯周病は、早期に発見して治療やケアを行う事が大切だということをご理解頂けたでしょうか。それでは、歯周病のサインにはどのようなものがあるのかについて、紹介します。下記のような症状に気づいたら、歯周病のサインと受け取り、動物病院での治療を受け、家庭でのデンタルケアでしっかり予防を行いましょう。
・口のにおいが臭くなった
・くしゃみや鼻水が出るようになった
・歯が汚れている
・歯磨きをすると歯肉から血が出る
・歯と歯肉の間に膿が出ている
・口を触ると嫌がる
・目の下や顎が腫れている
・食べる速度が遅くなったり片方の顎だけで食べたりと、食べ方が変わった
歯石除去は猫に負荷がかかる大変な処置
軽度の歯周炎までの場合は、動物病院で歯や歯周ポケットの中の歯垢や歯石を除去してもらいます。この時に、歯の見える部分のみを綺麗にするだけでは、歯周病の予防や治療にはなりません。全身麻酔を行い、歯の内側、歯と歯の間、歯周ポケットの中にある歯垢や歯石を取り、さらにポリッシングといって、歯の表面のザラザラを取ることで、歯垢や歯石の再付着を防がなければなりません。
一部の動物病院では、無麻酔で歯石除去の処置を行っているところもあるようですが、無麻酔の場合の処置には限界があり、完全な処置にはなりません。せっかく処置してもらったにも関わらず、歯周病が進行し続けてしまうのでは、愛猫への負荷が増えるだけという結果になってしまいかねませんので、おすすめできません。
重要なのは自宅でのデンタルケア
前述の通り、歯垢・歯石除去の処置には全身麻酔が必要です。しかし、全身麻酔にはリスクが伴います。特に高齢になると、全身麻酔が原因で命を失ってしまうような場合もあり得ます。そのため、子猫の頃からしっかりと自宅でのデンタルケアを行い、歯垢や歯石を付着させない事が理想的です。
万が一歯垢・歯石が付着してしまった場合でも、若い頃に処置をしてもらい、その後は自宅でのデンタルケアで予防を続ければ、高齢になってからのリスクを伴う処置を避けられます。最近では、動物病院で歯磨き教室などの指導を行なっているケースも増えていますし、どうしても歯ブラシを嫌がる子には、液体歯磨きや歯磨きシートなども出てきています。最初から歯ブラシではなかなか受け付けてくれない場合も、液体歯磨き、歯磨きシートと徐々に口を触ることに鳴らしていくと、最終的には歯ブラシを受け入れてくれる場合もありますので、愛猫の性格に合わせて色々と試してみましょう。
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