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知っておきたい人獣共通感染症(ズーノーシス)の基礎知識

ペット飼育管理士
増田暢子
[記事公開日]  [最終更新日]
最近新しく発見される感染症は、動物からヒトへと感染するものが増えてきています。COVID-19の場合はヒトから動物への感染報告しかありませんが、これを機に、既に知られているペットからヒトへと感染する主な人獣共通感染症やペットとの接し方についてまとめました。
[ 目次 ]
知っておきたい人獣共通感染症(ズーノーシス)の基礎知識

新型コロナウイルス感染症が動物へ感染したという報道

現在、世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスは、元々野生動物や家畜に感染するウイルスで、昔からよく知られているコロナウイルスの一種です。本来、コロナウイルスは種特異性が高いため、種の壁を越えて他の動物に感染することは稀であると考えられていました。

しかし、最近は種の壁を越えて感染する新型のコロナウイルスが出現しています。
今回の新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)も、飼い主から飼い犬や飼い猫へ、また動物園の飼育係から飼育されているトラへの感染が認められた等の報道が流れています。

ただし、今回のCOVID-19は人から動物への感染のみが認められており、動物から人への感染の証拠はなく、現時点では人から人への感染防止にのみ注力すべきであると考えられています。

新型コロナウイルスに関してはまだ分かっていないことが多く、感染爆発の抑止のためにも専門家の方達による研究の成果が待たれるところですが、今回は既知の人畜共通感染症について、愛犬や愛猫と一緒に暮らしておられる方に知っておいて頂きたい基本的な事項を整理をしてみたいと思います。

人獣共通感染症(ズーノーシス)とは

世界保健機関(WHO)は、1958年に「自然の状態で、人と脊椎動物の間で伝播する疾病あるいは感染症」を人獣(人畜)共通感染症(zoonosis)と定義づけました。実際には、動物から人へ伝播する感染症を指しています。

旧石器時代、人類の祖先は野生動物を狩り、食糧としてきました。やがて、野生動物を家畜化し、家畜から安定的に食糧を得るようになってきました。この、野生動物を家畜化し始めた頃から、人類は人獣共通感染症を認識していました。

実際、旧約聖書で食べてはいけないとされていたイノシシ、ラクダ、ウサギの肉などは、現在の人獣共通感染症に関わる公衆衛生の思想と同じものであると考えられています。

人獣共通感染症が広く社会的に注目されたのは、1967年のマールブルグ病からでした。これは、西ドイツのマールブルグとフランクフルトにおいて、研究所の職員がミドリザルから出血熱に感染し、死亡したというものでした。「原因不明のミドリザル病」という見出しで大々的に報道されましたが、当時は教会やマーケットで人が賑わうような市の中心地にある古い建物で研究が行われていました。今では、マールブルグウイルスはレベル4に分類され、最も危険なウイルスの一つとして扱われています。

このマールブルグ病の出現により、私たちは、アフリカの奥地などから先進国に野生動物を輸入することは、致死的なウイルスを持ち込む可能性を伴っているということを認識しました。そして、人獣共通感染症の重要性に気づいたのです。

主な人獣共通感染症

では具体的に、愛犬、愛猫、愛鳥などのペットと一緒に暮らしている方に気をつけて頂きたい人獣共通感染症についてご紹介します。

1. 狂犬病(ウイルス)
犬、猫、アライグマ、狐、スカンク、コウモリ他、ほとんどの哺乳類が宿主になり得ます。宿主である動物に噛まれるなどにより傷口から唾液を通して病原体が体内に侵入することで感染します。
犬の場合、潜伏期間は2週間前後で、興奮期→麻痺期と進行し、最終的には全身麻痺したまま昏睡死します。致死率は100%です。
ヒトの場合は1ヶ月前後の潜伏期で、興奮・錯乱・麻痺といった神経症状の後、呼吸困難により死亡します。宿主となる動物に噛まれた後、発症する前にワクチンを接種すれば助かりますが、発症してしまった場合は適切な治療法がないため、犬と同様に致死率は100%となります。

2. 高病原性鳥インフルエンザ(ウイルス)
ほとんどの鳥類が宿主になり得ます。糞便中に排出された病原体が体内に侵入することで感染します。
鳥は呼吸器症状、下痢、神経症状を示して死亡します。
ヒトの場合は高熱・悪寒・筋肉痛などのインフルエンザの症状を発症します。

3. パスツレラ症(細菌)
犬、猫、家畜が宿主となり得ます。宿主に噛まれたり引っかかれたりすることで傷口から唾液等を通して感染します。
犬や猫の口中に存在している常在細菌が病原体なので、動物は無症状です。
ヒトに感染すると、傷口が腫れ、気管支炎や肺炎などを起こします。

4. Q熱(リケッチア)
犬、猫が代表的ですが、哺乳類全般が宿主になり得ます。宿主の糞尿や羊水を通して感染します。
動物の場合は、まれに流産を起こすことがありますが、一般的には無症状です。
ヒトの場合、発症率は50%程度で、インフルエンザに似たような症状や肝炎の症状を示します。重症の場合は心内膜炎を伴うこともあります。

5. オウム病(クラミジア)
インコ、オウム、鳩などの鳥類が宿主となり得ます。糞便に病原体が排出されるため、乾燥した糞便を吸い込むことで感染します。
成鳥は無症状の場合が多いですが、若い鳥の場合は下痢などの症状が見られます。
ヒトの場合はインフルエンザに似た症状を発症し、まれにですが死亡するケースもあります。

6. トキソプラズマ症(寄生虫の一種)
主な宿主は猫ですが、犬や家畜一般もなり得ます。糞便中の病原体が体内に侵入することで感染します。
動物の場合はほとんど無症状です。まれに、幼獣の場合は肺炎・腸炎などを起こすこともあります。
ヒトの場合も通常は無症状ですが、まれに目・脳の炎症を起こすことがあります。怖いのは妊婦への感染で、新生児の先天性障害を引き起こします。

7. エキノコックス症(寄生虫)
犬や狐が宿主になり得ます。糞便中に排出された病原体が体内に侵入することで感染します。特に北海道の場合は全域が汚染地域となっているため、沢の水を飲むのもやめましょう。
動物は無症状で、寄生虫の卵を排出し続けます。
ヒトの場合は数年、数十年という経過を辿って悪化します。ただし、悪化するまでは無症状のままです。病原体はヒトの肝臓に寄生するため、肝機能障害が主たる症状になります。外科手術による寄生虫の摘出しか治療方法はありません。

動物と接する際に気をつけるべきこと

犬や猫、鳥などと一緒に暮らしている方に気をつけて頂きたい主な人獣共通感染症をご紹介してきました。これらの病気は、いつ飼い主のご家族に感染するか分かりません。愛犬、愛猫、愛鳥は無症状のことも多いからです。

感染経路としては、唾液・糞便・羊水を通してヒトの体内に侵入してくるものがほとんどですので、その点を注意して動物と接する必要があります。具体的に気をつけるべきことを、下記に挙げてご紹介します。

1. 手洗い
動物や動物の排泄物(砂場や野外の土等も含みます)を触った後は、必ず流水で手を充分に洗いましょう。できれば、市販されている殺菌消毒ができる石鹸をおすすめします。

2. 衛生的な生活環境を維持する
愛犬、愛猫、愛鳥などの健康管理と生活環境の清掃を定期的に行い、衛生的な生活環境を維持しましょう。ケージ、寝床、食器、タオルやキャリーバッグ、おもちゃなどの備品類も常に清潔な状態を保ちましょう。

3. 予防注射を受ける
愛犬や愛猫には、必ず定期的な予防注射を接種させましょう。特に、愛犬への狂犬病予防注射は必須です。現在の日本では狂犬病が発生しなくなって久しいですが、世界的には毎年55,000人程度の死者を出し続けています。いつ日本に持ち込まれてもおかしくない状況です。

4. いくら可愛くても過剰な接触は避ける
愛犬、愛猫、愛鳥は飼い主にとって我が子も同然の愛しい存在です。しかし、人獣共通感染症のことを意識し、あまりにも過剰な接触は日頃から避けるようにしましょう。過剰な接触とは、キスをする、口移しで食事を与える、食器を共用するなどを言います。また、愛犬や愛猫と同じ布団で一緒に休まれる飼い主も多いと思いますが、これも避けた方が良いです。

5. 野生動物を飼わない
道端で怪我をしている野生動物を見つけてかわいそうだからと家に連れ帰り、そのまま飼ってしまうことはやめましょう。この行為自体にはいくつもの問題点が含まれていますが、その中の一つに未知の人獣共通感染症の蔓延というリスクも含まれます。どうしても放っておけない場合は、近くの保健所や公立の保護施設(自治体により公的な保護施設がある場合もあります)に相談してみましょう。

適切な距離感を保っていつまでも動物と快適な暮らしを

大切なのは、飼い主と愛犬、愛猫、愛鳥などとの距離感です。動物たちは無症状のことが多いため、普段から愛犬や愛猫と過剰なスキンシップを取らないように注意する必要があります。そして、動物自身や、糞便・吐瀉物・羊水などの排泄物に接した後は、必ずその場所の清掃や手洗いを行い、病原体の排除を心がけましょう。

動物たちには無症状でも、飼い主には重い症状を起こすことも多い人獣共通感染症です。日頃から予防を心がけることで、飼い主自身の健康維持を行いましょう。それがひいては、愛犬、愛猫、愛鳥のためにもなるのです。

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