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仔犬の体調不良、食欲不振と嘔吐・下痢

獣医師
若林薫
[記事公開日]  [最終更新日]
 子犬は体調を崩しやすい生き物です。子犬の体調不良でよくみられる症状の内、食欲不振と嘔吐、下痢についてわかりやすく説明しました。子犬を動物病院に連れていく際、獣医師に伝えると適切な治療が行えるポイントについても解説をしています。
[ 目次 ]
仔犬の体調不良、食欲不振と嘔吐・下痢
 子犬と一緒の新生活、それはとても素敵なものです。彼らは世界のすべてが新鮮で、いつも何かに喜んで、驚いて、不思議そうで、そんな姿をみていると私たちの心も洗われるような気がします。しかし、その日は突然やってくるものです。子犬がぐったりとしている、なんだか具合が悪そう。子犬は大人のわんちゃんよりもずっと身体が弱いのです。そんなとき、私たちがお家で出来ることはあまり多くはありません。ですが、どうして体調が崩れてしまったのかを推測できるようになることは重要なことです。飼い主さんが正しい理解を持ってわんちゃんの体調不良を観察することで、初めて獣医師は適切な治療を行うことが出来ます。この記事では子犬によくみられる体調不良のうち、食欲不振と嘔吐、下痢についてわかりやすく説明していきます。

食欲がないとき

 トイプードルやチワワなどに代表されるトイ犬種の子犬は、獣医師や動物看護士が世話をしても絶対にごはんを食べないぞという頑固な子が多くいます。ごはんを食べないだけで他の症状がない場合、あげ方を工夫することでごはんを食べるようになる可能性があります。子犬は頭の大きさの2/3ぐらいの小さな胃を持ちます。ですので、一度に多くのごはんを食べることができません。少量のごはんを一日に何度も分けてあげるようにしてあげてください。ごはんの総量は子犬用のペットフードならばパッケージの裏に記載されていると思いますので、それを目安にするといいでしょう。それでも食べない場合は、ごはんをふやかしてあげてみてください。離乳食の柔らかい食感に慣れているため、固いごはんの食感が苦手な子犬も多くいます。わんちゃん用のふりかけを少しだけかけてあげることも良いと思います。基本的に、ドッグフードはトッピングをしなくても必要な栄養素が含まれているものですが、子犬に限ってはごはんを食べさせる方が重要です。
 1日以上ごはんを食べない場合はなんらかの体調不良を疑います。食欲がない以外に症状がない場合でも、なんだか気持ち悪くてごはんを食べないのかもしれません。くわえて、子犬は低血糖を起こしやすい動物です。ころころとした体形の子犬でも食欲不振で低血糖は起こり得ます。人の低血糖と同様に子犬の低血糖は場合によっては大事に至ります。1日以上ごはんを食べない場合は、動物病院に連れて行ってあげて下さい。

仔犬の体調不良、食欲不振と嘔吐・下痢

嘔吐をしているとき

 子犬が嘔吐しているとき、いつから嘔吐しているのか?いつ嘔吐するのか?という点をよく観察することが重要です。

1)朝起きると胃液のような黄色い嘔吐物がある場合
 犬は生理的に吐きやすい動物です。空腹などで胃酸が溜まると嘔吐することがあります。朝に黄色い胃液のような嘔吐物があるとき、夜中にお腹がすいて気持ち悪くなった可能性があります。上記の症状がみられるとき、ごはんの回数を増やすと嘔吐が収まる場合があります。

2)固形の内容物がない嘔吐を繰り返す場合
 このような場合、子犬は動物病院で治療すべき病気を抱えている可能性が高いです。異物の誤食、中毒を起こしているかもしれません。子犬がいつも遊んでいるおもちゃの破片や、何かをかじったようないたずらのあとはありませんか?もし、そのようなものがある場合、すぐに動物病院に連れて行って下さい。この際、誤食したと思われるものを持っていくとより正しい治療を行うことができます。誤食の治療は時間が勝負になります。異物が胃の中にある場合、催吐剤の処置で吐き出させることができますが、異物が腸に移動してしまった場合、開腹手術を行う可能性があります。

3)運動後や食事後に嘔吐してしまう場合
 子犬が運動や食事などの特定のタイミングに嘔吐してしまう場合、内臓が原因の体調不良を持っているかもしれません。タンパク質などの栄養素は子犬の成長に必須ですが、身体の中で分解されていく過程で刺激がある物質に変化します。これは生理的に正常な反応であり、健康な子犬では問題になりません。しかし、肝臓などの内臓に異常がある場合、これらの物質の分解が遅れ、体調不良を引き起こす可能性があります。運動後や食事後に嘔吐する、運動を嫌がる、これらの症状がある場合、血液検査で精査してみる必要があるかもしれません。

仔犬の体調不良、食欲不振と嘔吐・下痢

下痢をしているとき

 子犬が下痢をするとき、どんな下痢をするのか?回数や期間はどれぐらいなのか?という点をよく観察することが重要です。子犬は免疫機能が未発達なので感染症にかかりやすいです。混合ワクチンを最後まで接種していない場合、ワクチンの効果が完全に発揮できず感染症にかかってしまう場合もあります。

4)感染症による下痢
 子犬の感染症を引き起こす病源体には細菌、ウイルス、寄生虫がいます。これらの病源体は子犬が産まれたときから腸に住み着いているもの、他の犬から感染するもの、野外から感染するものなどがあります。これら病源体は普段は害を及ぼさないものも多く、身体が冷えた、ストレスがかかった、などのきっかけにより増殖して体調に異変を起こします。野外に存在する病原体は、子犬がお散歩デビューするときに感染し易いものですが、人間や同居犬に付着して室内に運ばれ、感染する場合もあります。腸内環境の変化は下痢を起こすだけではなく嘔吐を引き起こします。つまり、嘔吐、下痢を起こしているときは感染症を疑います。
 子犬の体調不良は症状がみられてから治療を始めるまでの期間の2倍ぐらい治癒するまで時間が必要だと言われています。できるだけ早く動物病院につれていくことが重要になります。では、動物病院に連れていく際に注意すべき点はあるのでしょうか?

・新鮮な下痢便をビニール袋に入れて持っていきましょう。新鮮な下痢便には下痢を引き起こした病源体が高確率で含まれています。獣医師は下痢便を顕微鏡で観察することである程度病源体を突き止めることができます。

・いつから下痢が始まったのか、一日に何回くらい下痢をするのか、を獣医師に伝えて下さい。子犬の持つ症状がどれくらい重度であり、どのような治療を優先して行うべきかを判断するための重要な情報になります。また、下痢便の色、固さなどの変位も伝えられると良いでしょう。もし、下痢便の固さがどんどん柔らかく、水っぽくなっている場合、症状は悪化しています。逆に固くなっていく場合、治癒に向かっているかもしれません。便の色からは消化器のどこで異常が起きているかを推測することができます。赤い血が混じる便は大腸などの下部消化管の異常を表していますし、黒い便は胃や小腸から発生した、時間のたった出血の特徴でもあります。

・下痢便を触った器具や、床は消毒するようにしましょう。下痢に含まれる病源体の中には外界で長期間生存するものがあります。

5)ワクチンアレルギーによる嘔吐、下痢
 子犬は狂犬病ワクチンや混合ワクチンを接種しなければなりません。これらワクチンで防ぐことができる病気は子犬にとって致死的なものが多く、子犬が健康に成長するためにワクチン接種は必須です。ですが、ワクチンはワクチンアレルギーを引き起こす場合があります。ワクチンを打って数時間のうちに急激に体調を崩した場合、ためらわず動物病院に急いでください。ワクチンアレルギーには前述した劇症的なもの以外に、比較的軽度なものがあります。食欲不振や、咳などの呼吸器症状や、嘔吐、下痢などの消化器症状を引き起こす場合があります。ワクチンを打った後に調子があまり良くないときには動物病院を受診してください。また、一度ワクチンアレルギーを起こしたことがある場合、次にワクチンを打つときに獣医師にその旨を伝えて下さい。

6)夏場に特徴的な下痢
 近年、夏の猛暑が続きます。冷房をかけた室内でも、なんだか暑く感じますよね。子犬も暑さにまいって冷たい床に伸びているかもしれません。人間ならかき氷やアイスを食べて身体を冷やしたいところですが、わんちゃんに氷を与えることはあまりよくありません。夏の動物病院では氷水を飲んでお腹を下してしまったわんちゃんが受診することがあります。

まとめ

 子犬の食欲がないときごはんのあげ方を工夫することで食欲不振を改善できる場合があります。しかし、食欲不振が1日以上続く場合、低血糖のリスクや何かしらの病気の可能性があります。
 子犬が嘔吐するときは、嘔吐するタイミングや頻度を観察するようにしましょう。もし異物を食べて嘔吐しているようでしたら、急いで動物病院に連れて行きましょう。
 下痢をしているときには、下痢便を持って動物病院を受診してください。その際に下痢の頻度や期間を獣医師に伝えられると良いです。日を追って下痢便の性状が変化しているようならそのことも伝えて下さい。また、ワクチンを打ったあとの体調不良には要注意して下さい。
 子犬は体調を崩しやすく、世話をすることが大変に思うことがあると思います。ちょっと嫌だな、と思ってしまうこともあるでしょう。しかし、子犬の世話は大変なものです。お母さん犬は日々苦心しながら子犬の世話をするのですが、我々人間がお母さん犬の代わりをするということはとても難しいことなのです。飼い主さんが子犬に向けた愛情は、子犬の身体が大人になって大きくなった頃、何倍も、何十倍も大きな愛情で返してくれます。

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