猫が少しでも居心地よく暮らせるための環境づくり
完全室内飼いのメリット
「愛猫には去勢・避妊手術をしないし、自由に外出させる。それが猫にとっての幸せだ。」もし、このように考えておられるのなら、まずはその考え方を変えて頂きたいと思います。
今や、犬や猫は伴侶動物と呼ばれ、人と一緒に生きていくことが前提です。それは人が決めたことですが、長い歴史の中で、犬や猫たちも自分たちの意思で人と一緒に暮らすことを選択してきた要素も否めません。基本的には、犬や猫たちは人がいなければ生きていけません。逆に、犬や猫と一緒に暮らすことを選んだ人は、その犬や猫の一生について、最期まで責任を持たなければならないのです。
その前提に立つと、猫の場合に最も良い生活環境は「完全室内飼い」です。完全室内飼いのメリットを挙げると下記になります。
・交通事故に遭うリスクの低減
・感染症に罹るリスクの低減
・動物虐待を受けるリスクの低減
・近隣住民とのトラブルリスクの低減
また、猫の繁殖力はとても強力です。1回に4〜8匹の子猫が、多ければ年に2〜3回生まれてしまいます。頑張ればちゃんと子猫の面倒もみられると考えていても、あっという間に手に負えない頭数になってしまいます。
去勢・避妊手術には、望まれない子猫を増やさない、発情期の猫の家出を防止する、発情期特有のマーキング行動を抑制する、生殖器系の病気を予防する等様々なメリットがあります。繁殖目的での飼育ではない限り、必要なことだと考えましょう。
室内飼いにおける安全対策
完全室内飼いは安全を脅かすリスクを低減できますが、完全室内飼い特有の安全対策は必要です。安全対策のポイントを挙げると下記になります。
(1) 外への脱出防止
猫は、足音を立てずに歩きます。ドアや窓を開けた瞬間も要注意です。また、古い網戸を破ったり、ベランダの柵を乗り越えたりもします。脱出防止策は必須です。
(2) 危険物の排除
電気コード、観葉植物、飼い主さんの常用薬、猫に中毒性のある食物、串/針/糸などの細くて尖ったものや紐状の物などは、猫の手の届くところに置いてはいけません。
(3) 危険な場所に寄せ付けない
浴槽、洗面所、トイレなどの水が溜まっているようなところに猫が落ちないように、またガス・電気コンロや洗濯槽、電子レンジ等、危険な物には入らせないようにしましょう。
猫にとって心地よい要素
人の目線で考えると完全室内飼いは精神面からも運動面からも、ストレスフルなように思えます。しかし、猫の習性から考えると、狭い室内であっても十分に猫に居心地の良い環境を提供することは可能です。
猫にとって心地よい環境を整えるための主なポイントを、以下にまとめます。
(1) 広さよりも上下方向への運動が大切
猫は広い平地を駆け回れなくても、上下方向への運動ができればストレスにはなりません。高い所は周囲を一望して警戒したり敵から逃れたりできる安全な場所であり、かつ上り下りすることで十分な運動量を確保できるので、精神面も運動面も満たされるからです。
食器棚、本棚などの上を開放し、高い棚の横に少し低い棚を置く、棚の上にはあまり物を置かない等の工夫をするだけで十分です。開放できる高い家具類がない場合は、市販のキャットタワーやキャットステップの設置を検討してあげましょう。
(2) 自分の縄張りが大切
愛猫が「ここは自分の縄張りだ」と安心できる場所が必要です。そのためには、まず飼い主さんに怒られずに爪を研げる場所をいくつか作ってあげることです。傷つけられたくない家具に近寄ったら霧吹きで空気や水をかけて「この場所は嫌いだ」と思わせ、市販の爪研ぎ器を使ったらご褒美におやつをあげるなどの方法で教えます。
監視場所と避難場所も必要です。部屋全体を一望できて寛げる場所や、すぐに隠れられる狭い場所を、猫の頭数分確保してください。
さらに、他の動物も含めて家族全員が揃って寛げる場所も必要です。リビングのソファや寝室のベッドなどが適しているでしょう。
(3) 十分な刺激が必要
猫は、意外と保守的で変化の少ない規則的な生活を好みます。しかし、そういった生活の中でも、猫が十分な刺激を得られるような工夫が必要です。運動不足だけではなく、刺激のない退屈な毎日もストレスの大きな原因になるからです。
窓際に棚やキャットタワーなどを置いて外を眺められる場所を作る、知恵を使わないと出てこない食器を利用する、毎日必ず飼い主さんとの遊び時間を十分に確保するといった工夫ができます。
(4) 室内の温度・湿度と衛生管理
猫にとって快適ななのは、室温=20〜28℃、湿度=50〜60%です。多少暑くても湿度が低ければ熱中症のリスクは抑えられますので、室温だけではなく湿度管理にも気をつけましょう。
また、こまめなトイレ掃除と毎食後の食器洗いも欠かせません。できればゆっくりと静かに日向ぼっこができる場所も確保できると良いでしょう。
(5) 年齢に応じた環境の改善
猫も、加齢に伴い視力や筋力などが低下します。愛猫の体調に合わせて、適宜環境を改善しましょう。
棚等に上るための補助台を置く、下りる時の危険度が増したら上れなくする、部屋の境の段差をなくす、留守番時の行動範囲を制約して安全を確保する等の工夫が必要です。
工夫次第で猫にも飼い主さんにも居心地の良い環境を作れる
猫のための設計やリフォームが行えれば、猫にも飼い主さんにも理想的な住環境が確保できるでしょう。しかし、これは誰もができる方法ではありません。猫の習性を理解し、ちょっとした工夫を凝らすことで、狭い室内でも快適な住環境に変えることができます。
もしも絶対に傷つけられたくない物がある場合は、猫を入らせない部屋を1つ作り、そこに全てしまいましょう。そして、猫の行動範囲に置く物は、家具でも小物でも、多少傷つけられることを許容しましょう。その上で、「これを使うと良いことがある」とか「これを使っても気持ち良くない」というような経験をさせて、愛猫に生活のルールを覚えてもらいましょう。
平穏で規則正しい毎日の中に小さな刺激がたくさん隠されていて、かつ安全で快適な毎日を、愛猫と共に作っていってください。
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