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犬の便と健康

獣医師
若林薫
[記事公開日]  [最終更新日]
 犬の健康状態は、元気や食欲の他、便や尿などの排泄物からも確認することができます。病気の早期発見・治療のために様々な便の状態と関連した病気について学んでいきましょう。
[ 目次 ]
犬の便と健康
 便は愛犬の異常にいち早く気が付くことができる健康のバロメーターと言えます。胃や腸などの消化管や、膵臓などの外分泌器官の異常を反映するため、病気の早期発見、治療に役立ちます。よく見られる便の異常と、いくつかの代表的な病気を紹介していきます。

様々な便の状態

・正常な便
 薄茶糸~濃茶色で、つかむと少し変形するくらいの固さ、そのような便が正常と言えますが、生理的な排泄物なのである程度状態の振れ幅があります。毎日の観察を行い、おおまかに正常な状態を把握しておきましょう。

・異常な便
 便の異常といえば、下痢便のような柔らかすぎるもの、血便のような鮮血色~黒色のもの、のように形や色に変化が出る場合が多いです。その他、便に異物が混ざっていることで異常に気が付くことがあります。便のなかに米粒~糸状の白っぽい虫体が混入しており、回虫や条虫のような寄生虫の感染に気が付いた、といった事例もあります。

便が緩いときと病気の関係

 下痢は腸内環境が悪くなることで起こります。健康な腸内には腸内微生物叢という細菌をはじめとした微生物が住み着いています。これらは犬の腸内で悪さをしないばかりか、一部では利益をもたらしていると言われており、ある程度の共生関係にあると言えます。ストレスや食生活の変化などにより腸内環境のバランスが崩れたとき、大腸菌などの細菌が異常に増える場合があり下痢を引き起こします。一方、外来性の細菌・ウイルス・寄生虫の感染、食物アレルギー、消化液の分泌不全などが原因となる下痢もありますが、これらは腸内バランスの乱れによる下痢と比較して症状が強く出ます。

・アレルギー性の下痢
 人と同じように犬には食物アレルギーがあります。アレルギー性の下痢は普段から食べている食事やおやつが原因になることがあり、特に体調を崩すような理由が見当たらないのにいつも下痢をしている、といった症状が出る場合があります。皮膚などに他の症状を併発することもあり、複合的な症状がみられている場合は、アレルギー性の下痢の可能性があります。

・膵炎
 膵炎は身体における重要な内分泌・外分泌器官である膵臓の炎症であり、糖尿病をはじめとした大きな病気を続発させることがあります。炎症により消化液の分泌が減少してしまうと、食物中の脂肪分を吸収できなくなり白っぽい下痢をします。また、強烈な上部腹痛を引き起こす為、犬は伏せをしたままお尻だけを高くあげる、祈りの姿勢と言われる特徴的な姿勢で痛みをこらえようとします。

・蛋白漏出性腸炎
 消化管から蛋白質が漏れ出す病気であり、慢性の下痢を引き起こします。この病気では吸収されるはずの脂肪や蛋白質、また、体内で水を保持する役割のある体液中の蛋白質が下痢に含まれて排出されてしまいます。そのため、重度の栄養不足、腹水や胸水の貯蓄などの大きな症状が出ます。原因の一つにリンパ腫などの腫瘍や、腸リンパ拡張症をはじめとした難治性の病気が多くあります。

便をしないときと病気の関係

 犬の便秘ではしぶりと呼ばれる症状がみられ、便をしたくても便がでない、排便のポーズをしても便をしない、といった行動を指します。しぶりの原因として大腸炎や、誤食したおもちゃやポリープ、腫瘍などの腸内の異物があげられます。

・大腸炎
 大腸に炎症が起きている場合、便に透明感のある赤色付着物もしくは、鮮血が混じることがあり、粘膜便・鮮血便と呼びます。しぶりの症状とともにこれらの便がみられるときは大腸炎を疑います。

・腸内異物、腫瘍による腸閉塞
 おもちゃや紐などを誤食してしまうと、誤食内容が食道~胃までにある場合、内容物のない頻回の嘔吐、下痢などがみられます。一方、誤食内容が腸まで到達してしまうと腸閉塞を引き起こし、ひどい便秘が引き起こされる場合があります。また、消化管にポリープができた場合や、炎症などが誘引となり腸重積が起きた場合も、同様の症状がみられます。

・前立腺肥大
 老犬において前立腺の腫瘍や過形成が原因で、腸管を外側から圧迫することにより便秘が起こることがあります。前立腺の腫瘍には悪性の腫瘍も含まれているため、注意が必要です。

犬の便と健康

子犬に特徴的な便の異常

 成犬に比べて子犬は特におなかを崩しやすい傾向があります。お腹が冷えた、ごはんが多い・固い、ストレスがかかった、このように様々な理由で下痢になります。一方、ワクチン接種に関係した下痢は、子犬にとって重大な病気を表している場合があります。

・ワクチンアレルギー
 子犬は狂犬病ワクチン、混合ワクチンとワクチンを打つ機会が多いです。ワクチンは犬と人が健康的に暮らしていくためには絶対に必要なものですが、病源体からの免疫をつくりだす性質上、ワクチンアレルギーが発症する可能性があります。重度なものではアナフィラキシーショックで、注射後数時間以内に劇的な症状を起こしますが、軽度なものでは数日間以内の嘔吐や下痢を引き起こします。ワクチン注射後の下痢症状に気が付いてあげることで、獣医師はそれ以降の接種において対策を講じることができます。

・パルボウイルス感染症
 パルボウイルス感染症は混合ワクチンの複数回の接種が完了していない子犬で発症する極めて死亡率の高い感染症です。赤ワイン様と比喩される特徴的な下痢をします。この感染症は治療が難しく、死亡してしまうことも多いですが、必ず治療できないわけではありません。パルボウイルス感染症と同様に、ワクチンで予防できる感染症は、致死率が高いものがほとんどを占めます。きちんとワクチンを打つ、自己判断でお散歩デビューさせないことが予防のために重要です。

便の異常と病気の早期発見・治療

 犬の便の異常、下痢や便秘には、大きな病気が隠れていることがあります。下痢のような症状は、比較的よく起こる為、見過ごしてしまうことも多いですが、病気の早期発見・治療を行うためには無視できないポイントです。小さな異変に気が付いて、動物病院で診察を受けることで、見つけ出すことのできる病気があります。愛犬と長く過ごすためにも、便の状態に気をつけながら生活していきましょう。

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