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犬の尿と健康

獣医師
若林薫
[記事公開日]  [最終更新日]
 犬の健康状態は、元気や食欲の他、便や尿などの排泄物からも確認することができます。尿は膀胱や尿道、腎臓のような泌尿器の他、ホルモンをつくりだす内分泌器官の異常を反映します。病気の早期発見・治療のために尿の状態について学んでいきましょう。
[ 目次 ]
犬の尿と健康
 犬の尿のトラブルは意外と見落としがちです。意識して観察しないと、尿は地面などに染み込んで見えなくなってしまいます。膀胱炎による血尿や、腎臓のダメージによる尿量の低下など、尿は多くの病気を発見するための指標になります。愛犬の健康維持のために、尿の異常と関連する病気について勉強していきましょう。

様々な尿の状態

・正常な尿
 薄い黄色~濃い黄色で、浮遊物の無い透明感のある液体が正常な尿です。尿の状態は気温に左右される飲水量などで変化し、回数もまた一定ではありません。毎日の観察で愛犬の正常な尿の状態とその推移を知っておきましょう。

・尿の状態を確認する方法
 ペットシートに染み込んだ尿の色を確認したり、排尿行動を覗くことで尿の状態を知ることができます。また、外陰部やペニスなどの泌尿器を確認する方法もあります。排尿直後なら尿の水滴が付着していますし、結石や生殖器などから漏出した膿などが付着している場合もあります。

・異常な尿
 尿そのものに異常が現れる場合と、排尿行動に異常が現れる場合があります。前者では血液・血色素の混入、浮遊物の混入などにより色が濃くなる、透明感を失う。また、尿の濃度が極端に薄まることで色が薄くなるなどの変化があります。後者では尿の回数が極端に増加・減少する、尿を出したくても出せない、などの変化が起きます。

尿でわかる病気:尿石症

 尿石とは尿中のミネラル分や異物が大小さまざまな大きさに結晶化したものを言います。犬でよくみられる結石にはストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石があります。これらが尿中に多く含まれると、ペットシートにした尿がざらつく、外陰部やペニスに白い小石のようなものが付着するなどの症状がみられます。結石の原因には細菌の感染や、おやつの食べ過ぎなどによる尿のpHの変化などがあげられます。犬の尿石症は動物病院でよく診断されるありふれた病気ですが、病状が進行することで大きな結石が尿路を詰まらせる、膀胱に石が溜まり炎症を引き起こす、腎臓にできた結石が原因の腎破裂を引き起こすなど、危険な状態になり得ます。幸いなことに、初期であれば治療はさほど難しくありません。

犬の尿と健康

尿の状態:血尿・血色素尿

 尿が濃く入れた麦茶のような色をしていることがあります。泌尿器の炎症や、血液の異常などにより、尿中に血液の色素や、血液そのものが混入している場合、このような色を呈することがあります。

・膀胱炎、尿道炎
 正常な尿は極めて無菌に近い状態であり、細菌が混ざっている場合、泌尿器に感染があることが分かります。尿路の感染は上行性といって、外陰部やペニスから菌がさかのぼって感染します。菌の感染は泌尿器の炎症を引き起こす他、ストルバイトのような尿石の生成を進めます。

・中毒によるもの
 タマネギ中毒は血液中の赤血球を破壊することで、尿を赤血球由来の色素で赤く染めます。この中毒に関して、さほど危険性はないといった意見をインターネット上で散見しますが、赤血球は酸素の運搬を行うだけではなく、大量に破壊されることで細胞毒性を持ちます。タマネギ中毒は危険な状態であり、放置することはお勧めできません。

尿の状態:尿の量がおかしい

 尿量の変化は腎臓をはじめとした重要な臓器の異常を表している場合があります。日々の観察において尿の色だけではなく量や頻度などもよく確認する必要があります。

・尿が少ない、出ない
 尿が出なくなる状態は、腎臓で尿を生成できなくなる、もしくは尿路に閉塞が起きることで発生します。前者は腎不全、後者は尿石や腫瘍などが原因になります。飲水量が低下することでも尿は少なくなりますが、どちらにせよあまり良い状態ではありません。もし、飲水量に関わらず急に尿がでなくなった、徐々に尿量が減ってきた場合はできるだけ早くに動物病院で検査を受けて下さい。

・尿が多い、良く水を飲む
 病的な多飲多尿は内分泌疾患の異常が原因になる場合があります。甲状腺や上皮小体、膵臓などの内分泌器官は、少量で大きな効果をもつホルモンを分泌していますが、内分泌器官の異常によりホルモンの効果が強く出すぎる、出なくなることがあります。上皮小体から放出されるホルモンが異常に増加するクッシング症候群や、膵臓から放出されるホルモンが異常に減少する糖尿病などは犬で多飲多尿を引き起こしますが、どちらも放置すると危険な病気です。

・子宮蓄膿症
 子宮に細菌感染による膿が溜まった状態を子宮蓄膿症と言います。未避妊、未経産の高齢犬に多い病気ですが、若齢犬でも発症する病気です。子宮蓄膿症の犬では子宮から漏れ出た膿が外陰部に付着しますが、膿が漏れ出さないタイプの症状もあります。そのほかの症状として、元気消失、食欲減退、多飲多尿などがあげられます。致死率の高い病気ですので、多飲多尿に気が付いたら、はやめに動物病院を受診することをおすすめします。

さいごに

 犬の健康状態を確認するために尿や便を観察することは病気の早期発見に役立ちます。これらは愛犬の毎日の世話のなかで習慣的に観察することができます。愛犬の健康を維持することは、思いのほか難しく、手間がかかることかもしれません。身体の異常に早く気が付くことができるようになることで、その負担は少しでも軽くなると信じています。飼い主さんと愛犬の健康な生活が長く続くことを願っています。

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