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犬の停留睾丸について知りましょう

獣医師
藤井ちひろ
[記事公開日]  [最終更新日]
ショップで、施設で、ブリーダーさんで、愛犬との出会いはさまざまです。これからの毎日を考えるとわくわくしますが、お迎えのときに伝えられる健康状態のところに「停留睾丸」はありませんか?

どこからみても元気いっぱいなわんちゃん、でも異常があるの?これって大丈夫??
安心してこれからの毎日を楽しめるよう、具体的にどういう異常なのか、どうすればいいのか、一つずつお話していきますね。
[ 目次 ]
犬の停留睾丸について知りましょう
最近は愛犬と出会う場所は大きく広がり、ペットショップだけでなく、ブリーダーさんや保護施設などさまざまです。

そのわんちゃんが新しい環境で健やかに生活できるよう、飼い主さんにお渡しする前には健康チェックが行われます。その中のひとつにオスであればかならず、「睾丸」の確認があります。
そこに異常があると「停留睾丸」となるのです。陰睾丸、潜在精巣、停留精巣、停滞精巣、片タマ、片キンなどさまざまな表現があります。

どういう病気なの?

精巣は精子が作られる生殖器のひとつで、お母さんのお腹にいる胎児の時はまだ精巣が体内にあります。
生後1週間~10日ほどたつとオスのホルモンの影響をうけ、精巣が体内から正しい位置である陰嚢に向かって降りていきます。
この働きは個体差はありますが、だいたい2カ月ほどで完了し、精巣は陰嚢のなかにきちんとおさまり睾丸が2つ確認できるようになるのです。

この精巣下降期を過ぎても睾丸が確認できない状態を、停留睾丸と診断し、どこで精巣の下降が止まっているかで2つに分類されます。

・腹腔内陰睾
お腹の中で下降が止まってしまっている、触診では存在が不明で、エコーや腹腔鏡で確認ができる

・皮下陰睾
精巣がお腹からは脱出し、皮膚の下にある鼠径管を通って陰嚢に加工する途中で止まってしまっている、鼠蹊部の触診で確認できる

どちらも同じくらいの確率で見られるものですが、タイプによって、手術方法は大きく変わります。

犬の停留睾丸について知りましょう

このままでだいじょうぶなの?

陰嚢内に下降していない精巣は、精子が体温の影響を受けやすくなるため、正常な性的機能が維持されず、不妊の原因となる可能性があります。
お腹の中は皮下よりもさらに高温となるため、この傾向は腹腔内陰睾でより明らかとなります。
しかしオスのホルモンは高体温でも正常に分泌されるため、メスを求める性欲に大きな差は見られません。

また、停留睾丸は正常に下降している精巣に比べ精巣腫瘍の発生率が約10倍、6%の確立で発症するという報告もされています。
そもそも精巣腫瘍自体の発生率が、去勢していないオスの腫瘍のなかでも上位になるように高い傾向にあるため、停留睾丸のままでいることは非常に大きな癌リスクであるといえます。

どうすればいいの?

こどもをとりたい、交配を考えている、という場合、残念ですが考え直されることをおすすめします。
停留睾丸が片方だけであれば、正常な精巣が働くことで交配自体は可能です。
しかしこの異常は遺伝が一番の原因と考えられており、一定の犬種や家系にはこの病気の発生率が他に比べて有意に高いことがわかっています。
そのため、停留睾丸のオスを交配させれば、そのこどももやはり停留睾丸になる、というように癌リスクの高い異常が続いていってしまうのです。

とるべき方法は手術による停留睾丸の摘出です。

・腹腔内陰睾 
開腹し、体内にある精巣を摘出します。
最近では内視鏡のひとつである腹腔鏡をつかった手術もあり、手術の侵襲度や時間が大幅に減少することで術後の回復もかなり早くなりました。


・皮下陰睾
鼠径部を圧迫し、摘出に適した部位で皮膚を切開し精巣を摘出します。場所によっては通常の去勢手術とほぼ変わらない術式で行うことができる場合もあります。

犬の停留睾丸について知りましょう

どんなことに気を付けるべき?

停留睾丸の治療は早期発見、早期摘出が基本です。
愛犬を迎えた時にすでに停留睾丸がわかっているときは、新しい生活に慣れたらかかりつけの病院と摘出手術の相談をしましょう。

なんらかの事情ですぐに手術が難しい場合、または保護したり譲り受けたこで停留睾丸がどうかの判断がつきずらいときは病院ではもちろんのこと、お家でも定期的にチェックしましょう。

・陰嚢内に睾丸が2つあるかどうか
・2つない場合、後足のつけね~内股である鼠径部にふくらみがあるかどうか
・ふくらみがわからない場合、またはぽっちゃりめで下腹部の確認がむずかしい場合は動物病院で確認しましょう
・すぐの摘出を行わない場合、大きさ、硬さ、触って痛みがないかなど

まとめ

停留睾丸は毎日の生活には何の影響もなく、動物も元気そのものであることが多いため、ついついそのままになってしまいがちです。
また手術というと麻酔や術後の生活が心配で、なかなか踏み切れない飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。

しかしそのままシニアになり、精巣に変化があらわれてから慌てて手術するのは、若いときに比べさまざまなリスクが何倍にもなっていることが多くあります。
ぜひ愛犬の健やかで楽しい長生きのために、早めの診断と手術を検討してあげてくださいね。

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