犬の蛋白漏出性腸症って何?厄介な消化器疾患を解説!
持続的な低蛋白血症は時に命に関わることもあり、早期の発見と治療が求められる疾患でもあります。
また犬にとっても、慢性的な下痢や腹水などによって非常に苦しい思いをすることになります。
蛋白漏出性腸症という病気への理解を深めるためにも、ぜひ最後まで読んで頂ければと思います。
犬の蛋白漏出性腸症は、腸リンパ管拡張症や炎症性腸疾患から発症することの多い消化器疾患の一つです。
病態生理や発生機序に不明な点も多く、治療に反応しないなど獣医師泣かせの病気でもあります。
我々獣医師は蛋白漏出性腸症が疑われる場合、頭を悩ませますが、飼い主に説明してもその厄介さがイマイチ伝わらないことも多くあります。
では、犬の蛋白漏出性腸症は何がそんなに厄介なのでしょうか。
本記事では犬の蛋白漏出性腸症の症状、診断、治療から予後まで解説していきます。
蛋白漏出性腸症(PLE)とは
蛋白漏出性腸症は、血液(血漿)中の蛋白が、腸粘膜から腸管腔へ異常に漏出して起こる症候群のことです。
蛋白質が腸管へ漏れ出ることによって血漿中の蛋白濃度は低くなり、様々な症状が引き起こされます。
下痢を主訴とすることが多い疾患ですが、ただの下痢であろうと考え、飼い主が気付かないこともあり注意が必要です。
犬の蛋白漏出性腸症の原因
犬の蛋白漏出性腸症の原因となる腸疾患には、腸リンパ管拡張症、重度の炎症性腸疾患、腸管型リンパ腫、胃腸潰瘍、重度の感染性胃腸炎などが知られています。
この中の腸リンパ管拡張症に関しては、リンパ管閉塞、リンパ腫、心外膜炎などが原因として挙げられますが、ほとんどが原因不明となっています。
蛋白漏出性腸症にかかりやすい犬種
蛋白漏出性腸症の好発犬種は明らかとなっていませんが、ヨークシャーテリア、バセンジーなどで発生率が高いという報告があります。
また炎症性腸疾患の好発犬種としてジャーマンシェパード、シャーペイが、リンパ腫の好発犬種としてゴールデンレトリーバー、ボクサー、コッカ―スパニエル、ロットワイラーなどが挙げられます。
犬の蛋白漏出性腸症の症状
症状としては以下のようなものがあります。
・下痢、軟便
・腹水
・胸水
・体重減少
・浮腫
下痢に関しては、認められない場合もあるため注意が必要です。
他にも原因となる疾患によっては
・嘔吐
・食欲不振
・血便
などが見られる場合もあります。
犬の蛋白漏出性腸症の診断
いくつかの検査を併用し、他の疾患を除外しながら診断を進めていきます。
・血液検査
血液生化学検査では、低蛋白血症、リンパ球減少症、低コレステロール血症、低カリウム血症が認められることが多いとされていますが、認められない症例もあります。
また胆汁酸の値を測定し、肝機能の評価を行います。
・尿検査
尿蛋白/クレアチニン比を測定し、蛋白漏出性腎症の除外を行います。
またソフトコーテッドウィートンテリアという犬種では、蛋白漏出性腸症と蛋白漏出性腎症を併発することが多いと言われています。
つまり、尿検査によって蛋白漏出性腎症が疑われた場合でも、蛋白漏出性腸症が否定出来るわけではありません。
・画像検査
胸水や腹水の貯留を確認する以外では、蛋白漏出性腸症の診断には有用ではありません。
しかし、超音波検査によって肝疾患やリンパ腫の除外を行う意味では必要です。
・組織生検
内視鏡あるいは試験開腹によって生検材料を採取し、組織学的検査を行います。
内視鏡の前に脂肪を給与することで、腸管のリンパ管が明確となり、腸リンパ管拡張症の診断が容易となることがあります。
これらの検査には全身麻酔が必要となるため、血液検査などの非侵襲的な検査および臨床症状によってある程度の当たりをつける必要があります。
また低蛋白血症の場合には全身麻酔のリスクが上昇するため、診断的治療を行った上で確定診断に進むこともあります。
犬の蛋白漏出性腸症の治療と予防
犬の蛋白漏出性腸症の治療は、その原因となっている疾患の治療を主に行っていきます。
また特発性(原因不明)の場合は、蛋白の漏出を減少させ、腹水や浮腫を軽減させることが治療の目的となります。
・食事制限
食事中の脂肪分がリンパ管の拡張を促すため、蛋白漏出を軽減させるためには低脂肪食への変更が推奨されます。
また脂肪の中でも長鎖トリグリセリドがリンパ管の拡張に関与しているため、脂肪が含まれているとしても中鎖トリグリセリドかどうかを確認しましょう。
体重減少が起きている場合にも、脂肪の制限によって栄養不足が起きていると考えられる時には、中鎖トリグリセリドを添加することがあります。
・ステロイドの投与
原因疾患として炎症性腸疾患が起きている場合や、炎症によってリンパ管の通過障害が起こりリンパ管の拡張が起きている場合には、コルチコステロイドなどのステロイド剤が投与されます。
・利尿薬
胸水や腹水が貯留している時には、利尿薬を投与することがあります。
また犬の蛋白漏出性腸症の予防は、原因となる種々の疾患についても予防法が確立されていないものも多く、困難と言えます。
定期的な健康診断によって一早く蛋白漏出の可能性を感知し、病気の芽を摘み取ることが唯一の予防法でしょう。
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