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獣医師
石川 愛美
寒くなる季節に気をつけたい 犬と猫のおしっこトラブル

寒くなってきたら、「おしっこ」にも少し目を向けてみてください ― 季節の変わり目は、水分摂取と排尿を見直すよいタイミングです

朝晩の冷え込みが強くなってくると、犬や猫の過ごし方にも少しずつ変化が出てきます。
犬であれば、暑い時期ほど長時間ハアハアすることがなくなったり、散歩の時間帯や運動量が変わったりします。猫では、暖かい場所で丸くなって眠っている時間が増えることもあります。
こうした季節に、ぜひ一緒に見ていただきたいのが「水」と「おしっこ」です。
診療の中で、「寒くなると水を飲まなくなるから、膀胱炎になりやすいのでしょうか」とご相談を受けることがあります。
確かに、夏の暑い時期には体温調節などによって水分を必要とする場面が増えます。気温が下がれば、暑さによる水分需要は小さくなりますし、運動量や室温、食事内容などによっても水の飲み方は変わります。
ただし、「冬になれば、どの犬や猫も水を飲まなくなる」と単純に考えることはできません。
私たち獣医師が実際の診療で大切にしているのは、「一般的に冬はどうなのか」ということより、「その子自身が普段と比べてどう変わったか」ということです。
最近、給水器の水がなかなか減らない。
猫砂にできるおしっこの塊が以前より小さい気がする。
反対に、水を飲む回数が急に増えた。
そうした変化があれば、一度意識して見てみてください。
特に猫では、水皿から飲む水だけでなく、食事に含まれる水分も一日の水分摂取量に大きく関係しています。実際、食事から摂る水分を増やすことで、総水分摂取量や尿量が増え、尿が薄くなることが研究でも確認されています。
冬だからといって、必要以上におしっこの病気を心配する必要はありません。
ただ、季節が変わるタイミングは、普段あまり意識していない「水を飲むこと」と「おしっこをすること」を見直すよい機会です。

おしっこは「何回したか」だけでは分かりません ― 量・色・姿勢・場所も、普段との違いを知るヒントになります

「一日に何回くらいおしっこをすれば正常ですか」
診療の中で、よくいただく質問の一つです。
もちろん排尿回数は大切です。ただ、犬や猫のおしっこの回数は、水を飲む量、食事に含まれる水分、体格、運動量などによって変わります。そのため、「一日○回なら正常」と数字だけで判断することはできません。
むしろ知っておいていただきたいのは、その子の「いつも」です。
たとえば犬であれば、いつもと同じくらいの量が出ているか、尿の勢いが変わっていないか、少量ずつ何度も排尿していないかを見てみましょう。
猫で固まるタイプの猫砂を使っている場合には、尿の塊も参考になります。
昨日まではある程度大きな塊だったのに、最近は小さな塊がいくつもある。あるいは、いつもより極端に大きな塊が増えた。
これは正確な尿量測定ではありませんが、ご家庭で変化に気づくための一つの目安になります。
尿の色も見てみましょう。
明らかに赤い、あるいはピンク色に見える場合には、血尿の可能性があります。ただし、見た目では普通に見えていても、尿検査をすると血液が混じっていることもあるため注意が必要です。
そして、私が特に見ていただきたいと思っているのが、「おしっこをするときの様子」です。
何度もトイレへ行く。
いつもより長くしゃがんでいる。
力んでいる。
排尿するときに鳴く。
陰部を何度もなめる。
今までしなかった場所でおしっこをする。
このような変化がないでしょうか。
特に猫がトイレ以外で排尿すると、「粗相をしたのかな」「何か不満があるのかな」と思うかもしれません。
もちろん行動面の問題が関係することもあります。しかし、猫の下部尿路疾患では、排尿時の痛みや違和感からトイレ以外で排尿することがあります。
叱る前に、「もしかすると、体に何か理由があるのかもしれない」と一度考えてみてください。

何度もトイレに行く、血が混じる。原因は一つではありません ― 「膀胱炎」と「尿石症」について知っておきたいこと

犬や猫のおしっこのトラブルとして、比較的よく知られているのが膀胱炎と尿石症です。
膀胱に炎症があると、何度も排尿する、少量ずつしか出ない、排尿時に痛がる、血尿が出るといった症状がみられることがあります。
ただし、「膀胱炎」という言葉を少し分けて考える必要があります。
「膀胱炎=膀胱に細菌が入った病気」と思われることがありますが、必ずしもそうではありません。膀胱炎とは、あくまで膀胱に炎症が起きている状態を指し、その原因はさまざまです。
犬では細菌性膀胱炎は比較的よく遭遇する病気です。
一方、猫では事情が少し違います。
特に若い猫で血尿や頻尿などの症状が出た場合には、細菌感染よりも「猫特発性膀胱炎」という病気が重要になります。
逆に、高齢の猫や糖尿病、慢性腎臓病などの基礎疾患がある猫では、細菌による尿路感染症がみられる可能性が高くなります。
つまり、同じように見える「膀胱炎」でも、犬なのか猫なのか、何歳なのか、どのような病気を持っているのかによって、考え方が変わるのです。
もう一つが尿石症です。
尿の中の成分が結晶化し、それがまとまって石になったものを尿石と呼びます。犬や猫では、ストルバイトやシュウ酸カルシウムなどが代表的です。
ここで覚えておいていただきたいのは、尿石はすべて同じではないということです。
食事によって溶かすことができるものもあれば、基本的には食事で溶かすことができないものもあります。予防のための食事管理も、尿石の種類によって異なります。
「尿石が心配だから、このフードに変えてみよう」「尿を酸性にするサプリメントを与えてみよう」と自己判断するのはおすすめできません。
まずは、何が原因なのかを確認する。
遠回りに見えても、それが適切な治療への一番確実な道になります。

猫の膀胱炎は、「膀胱だけ」を見ていても解決しないことがあります ― 猫特発性膀胱炎では、暮らしている環境も大切です

猫のおしっこのトラブルを診ていると、犬とは少し違った考え方が必要だと感じることがあります。
その代表が、猫特発性膀胱炎です。
猫の下部尿路に症状を起こす病気は、まとめて「FLUTD(Feline Lower Urinary Tract Disease)」と呼ばれます。
猫特発性膀胱炎、尿石症、尿道栓子、尿路感染症、腫瘍など、原因はさまざまです。その中でも猫特発性膀胱炎は、猫の下部尿路症状を考えるうえで非常に重要です。
「特発性」という名前のとおり、一つの明確な原因だけで説明できる病気ではありません。
現在では、膀胱だけではなく、神経系や内分泌系、ストレスへの反応などが複雑に関係していると考えられています。
そのため、猫特発性膀胱炎では、薬を使うことだけが治療ではありません。
安心して眠れる場所はあるか。
食事や水に落ち着いて近づけるか。
トイレは安心して使える場所にあるか。
一緒に暮らしている猫との関係はどうか。
遊んだり、高い場所へ上ったり、隠れたりすることができるか。
こうした暮らしの環境も一緒に見ていきます。
これは「Multimodal Environmental Modification(MEMO)」と呼ばれる考え方です。
言葉だけを見ると難しく感じますが、簡単に言えば、「猫が安心して猫らしく暮らせる環境を整える」ということです。
近年のシステマティックレビューでも、こうした多面的な環境改善や、水分摂取を考慮した食事管理には、猫特発性膀胱炎の管理法として比較的しっかりとした裏付けがあります。
ただし、一つ注意していただきたいことがあります。
以前、猫特発性膀胱炎と診断されたからといって、次に血尿が出たときも必ず同じ病気とは限りません。
数年経てば年齢も変わります。尿石ができていることもあれば、尿路感染症など別の病気が起きることもあります。
「この子はいつもの膀胱炎だから」と決めつけず、そのときの状態を確認することが大切です。

特に雄猫では、「おしっこが出ていない」を見逃さないでください ― 尿道閉塞は、様子を見てはいけない緊急疾患です

猫のおしっこのトラブルの中で、特に注意していただきたいのが「尿道閉塞」です。
これは、尿の通り道である尿道が詰まり、おしっこを出せなくなる状態です。特に雄猫は、雌猫に比べて尿道が細く長いため、尿道栓子や尿石などによって閉塞を起こすことがあります。
はじめのうちは、何度もトイレへ行く、長い時間しゃがんでいる、力んでいる、少量しか尿が出ない、排尿するときに鳴くといった様子がみられます。
こうした症状は膀胱炎でもみられるため、見た目だけでは区別しにくいことがあります。
また、実際の診療では「便秘だと思っていました」とご家族から伺うこともあります。猫がトイレで何度も力んでいる姿が、便を出そうとしているように見えるためです。
しかし、尿道が完全に詰まってしまうと、尿を体外へ出すことができません。
その状態が続くと、体内に本来尿として排泄されるはずの老廃物がたまり、腎機能にも影響が出てきます。また、血液中の電解質のバランスが崩れ、特にカリウムが大きく上昇すると、心臓の働きに影響して生命に関わることがあります。
さらに状態が進むと、食欲がなくなる、吐く、ぐったりする、体温が下がるといった全身症状がみられることもあります。
そのため、猫が何度もトイレへ行っているのに尿の跡がほとんどない、排尿姿勢を取って力んでいるのに尿が出ていない、といった場合には注意が必要です。
特に雄猫でこのような様子がみられた場合には、翌日まで様子を見るのではなく、できるだけ早くかかりつけの獣医師や動物病院へ連絡してください。時間帯によっては、夜間救急の受診が必要になることもあります。
尿道閉塞は、早く気づいて対応することがとても大切な病気です。
「何度もトイレへ行っているけれど、実際にはおしっこが出ているのか」。
猫の排尿の様子に変化があったときには、回数だけではなく、尿がきちんと出ているかまで確認しておきましょう。

なぜ「水分を摂ること」が、おしっこの健康につながるのでしょうか ― 大切なのは、水皿から飲んだ量だけではありません

尿路の健康についてお話しすると、「では、水をたくさん飲ませればよいのでしょうか」と聞かれることがあります。
水分をしっかり摂ることは、確かに大切です。
水分摂取量が増えると、一般的には尿量も増えます。すると、尿の中に含まれるさまざまな成分を薄める方向に働きます。
尿石ができる過程には、カルシウムやシュウ酸、マグネシウム、リンなど、尿中のさまざまな成分が関係しています。
そのため、尿を過度に濃縮させないことは、尿石症を管理するうえで大切な考え方の一つです。
特に猫では、「水皿の水がどれくらい減ったか」だけで判断する必要はありません。
ウェットフードを食べている猫は、食事からも水分を摂っているからです。
高水分の食事を食べた猫では、総水分摂取量と尿量が増え、尿が薄くなることが研究で確認されています。
つまり、目標は「水を無理にたくさん飲ませること」ではありません。
水から摂る分と、食事から摂る分を合わせて、体に入る水分全体を考えることです。
これは特に、もともとあまり水皿から飲まない猫では大切な視点です。
ただし、すべての犬や猫に同じ方法が適しているわけではありません。
現在療法食を食べている、過去に尿石症になったことがある、腎臓や心臓などに基礎疾患がある。
そのような場合には、その子に適した食事内容や水分管理があります。
よかれと思ってフードやサプリメントを変更する前に、かかりつけの獣医師へ相談していただくのが安心です。

冬でも、無理なく水分を摂ってもらうために ― 「飲ませる」よりも、「自然に飲める環境」を考えてみましょう

では、ご家庭ではどんなことができるでしょうか。
まず、水を置いている場所を少し見直してみてください。
特に猫では、一か所だけではなく、何か所かに水を置いてみる方法があります。
そして、猫には意外と好みがあります。
広めの器からよく飲む子もいます。流れる水が好きな子もいますし、反対に給水器には興味を示さない子もいます。
「猫にはこの器がよい」「給水器を使えば必ず飲水量が増える」という絶対的な正解があるわけではありません。
大切なのは、その子が実際にどの方法なら飲んでくれるのかを見ることです。
2025年の猫の下部尿路疾患に関する国際的なガイドラインでも、水を複数の場所に用意すること、異なるタイプの器を試すこと、給水器を利用すること、高水分の食事を取り入れることなど、さまざまな方法が紹介されています。
食事から水分を摂ることも一つの方法です。
健康状態や食事管理上問題がなければ、ウェットフードを取り入れることで、一日の総水分摂取量を増やせる場合があります。
フードに水を加える方法もありますが、食べなくなってしまっては意味がありません。少しずつ試しながら、その子が受け入れられる方法を探します。また、水を加えたフードは傷みやすいため、食べ残しの管理にも注意しましょう。
猫の場合は、トイレにも目を向けてみましょう。
いつも清潔に保たれているか。
落ち着いて使える場所にあるか。
同居猫に邪魔されないか。
狭すぎず、入りやすく、排尿しやすいトイレか。
一般的な目安として、「猫の頭数+1個」のトイレを用意することが推奨されています。ただし、単に数を増やせばよいわけではなく、それぞれのトイレが猫にとって安心して使える場所にあることも大切です。
水を飲む環境と、安心して排尿できる環境。
この両方を整えることが、猫の尿路を考えるうえでは大切です。

毎日のおしっこは、犬や猫から届く健康情報です ― 「いつもと違う」に気づけるのは、一緒に暮らすご家族です

犬や猫は、「膀胱が痛い」「おしっこが出にくい」と言葉で私たちに伝えることができません。
その代わり、行動として教えてくれます。
トイレへ行く回数が増えた。
一回のおしっこの量が少ない。
いつもより長く排尿姿勢を取っている。
尿に血が混じっている。
今までしなかった場所で排尿した。
陰部をよくなめるようになった。
一つひとつは小さな変化かもしれません。
しかし、その変化が病気を見つけるきっかけになることがあります。
特に、「何度もおしっこをしようとしているのに出ていない」という状態は見逃さないでください。
雄猫では尿道閉塞の可能性があります。
一方で、水を飲む量やおしっこの量が増える変化にも注意が必要です。
最近、水をとてもよく飲む。
おしっこの量が明らかに増えた。
この場合も、「水をよく飲んでいるから尿路にはよさそう」とは限りません。
慢性腎臓病や糖尿病、猫では甲状腺機能亢進症など、飲水量と尿量が増える病気があります。
大切なのは、「多いほうがよい」「少ないから悪い」と単純に考えるのではなく、「以前のその子と比べてどうか」という視点です。
寒くなるからといって、すべての犬や猫がおしっこの病気になるわけではないため、必要以上に心配する必要はありません。
ただ、季節が変わるこのタイミングで、少しだけ水とおしっこに目を向けてみてください。
いつもの水の飲み方。
いつものおしっこの量。
いつものトイレの回数。
いつもの排尿姿勢。
その「いつも」を一番よく知っているのは、毎日一緒に暮らしているご家族です。
「何となく、いつもと違うな」
その感覚を、大切にしていただきたいと思います。
毎日のおしっこは、犬や猫の体から届く、とても身近な健康情報なのです。

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