犬の三尖弁閉鎖不全症とは

三尖弁がしっかり閉じなくなる疾患です。

三尖弁とは、右心房と右心室の間のことですが、三尖弁閉鎖不全症とは、この三尖弁がしっかりと閉じなくなることで様々な症状を引き起こす疾患です。三尖弁閉鎖不全症は、進行しないと臨床症状が非常に軽度であるため、見過ごされやすい傾向があります。

犬の三尖弁閉鎖不全症の症状とは

進行すると腹水貯留、運動不耐性などの症状を引き起こします。

三尖弁閉鎖不全症の初期～中期にかけての臨床症状は、非常に軽度であるため見過ごされやすい傾向があります。
進行した三尖弁閉鎖不全症では、静脈血がうっ滞することで、頸静脈の怒張や肝腫大を引き起こします。さらに末期になりますと、腹水貯留を伴うことがあり、食欲の低下や努力性呼吸、運動不耐性、沈鬱、チアノーゼなどを引き起こします。

聴診では右側心尖部における収縮期雑音が聴取されますが、ごく軽度な三尖弁逆流の場合には聴取できないこともあります。心エコー図検査では、カラードプラ法を用いて三尖弁逆流を確認することで確定診断が得られます。進行した三尖弁閉鎖不全症では、右心房・右心室の拡大、心室中隔の扁平化が認められます。うっ血肝を伴う場合は肝静脈が中心静脈と同等に拡張します。また、肺動脈の拡張が認められる場合や三尖弁逆流速度が2.8m/秒以上の場合には肺高血圧症を疑います。

犬の三尖弁閉鎖不全症の原因とは

原発的要因

三尖弁閉鎖不全症には、原発的要因（一次性）と続発的要因（二次性）があります。

一次性三尖弁閉鎖不全症としましては、中隔尖の形成不全、三尖弁に乳頭筋が直接連結している乳頭筋異常、エプスタイン奇形、三尖弁の器質的変化などが挙げられます。

続発的要因

二次性三尖弁閉鎖不全症としましては、右心室内圧の上昇による三尖弁輪の拡大（肺高血圧症、肺動脈弁狭窄など）、左心不全（左心拡大）に伴う三尖弁輪の変形などが挙げられます。

三尖弁閉鎖不全症の診断にはこれらの鑑別が必要になります。

犬の三尖弁閉鎖不全症の好発品種について

以下の犬種で好発がみられます。

一次性三尖弁閉鎖不全症の好発犬種としましては、アイリッシュセッター、グレートデーン、ゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバー、ボクサーなどの大型犬が挙げられます。

二次性三尖弁閉鎖不全症の好発犬種としましては、キャバリアキングチャールズスパニエル、シーズー、トイプードル、ミニチュアシュナウザー、ミニチュアダックスフントなど小型犬が挙げられます。

犬の三尖弁閉鎖不全症の予防方法について

早期発見・早期治療をおこないます。

一次性三尖弁閉鎖不全症の場合は、早期発見し、必要な段階になったら治療を開始します。

二次性三尖弁閉鎖不全症の場合は、基礎疾患の鑑別が不可欠となり、基礎疾患の早期治療をおこないます。

犬の三尖弁閉鎖不全症の治療方法について

軽度な三尖弁閉鎖不全症

三尖弁逆流速度が2.8m/秒未満で心拡大を伴わない場合は無治療となり、経過観察となる場合があります。
二次性三尖弁閉鎖不全症の場合は、基礎疾患の治療を優先します。

進行した三尖弁閉鎖不全症

三尖弁閉鎖不全症の内科的治療に関しては研究報告が非常に少なく、獣医師が経験的に薬剤を選択することが多いです。ACE阻害剤、利尿剤、強心剤、肺動脈拡張剤などが用いられます。

腹水貯留が認められ、元気食欲の低下、努力性呼吸を合併している場合は、腹水抜去をおこなうことが推奨されています。腹水抜去を頻繁に繰り返す場合、蛋白質を喪失しやすく、心不全による心臓悪液質の併発を助長する可能性があります。そのため、このような症例では高蛋白、高カロリーの食事が推奨されています。

予後

三尖弁閉鎖不全症の予後は比較的良好で、診断から数年生存する場合が多々あります。ただし、うっ血性右心不全を併発すると予後は悪くなります。うっ血性右心不全の場合、心臓悪液質に陥り、体重減少や削痩が生じることがあり、さらに予後が悪くなります。