犬の肝性脳症とは

肝疾患および門脈体循環シャントによって引き起こされる神経機能障害です。

肝性脳症は、肝疾患および門脈体循環シャントによって引き起こされる神経機能障害です。基礎疾患の精査が非常に重要と言えます。

犬の肝性脳症の症状とは

神経症状が見られます。

沈うつ、流涎、てんかん様発作、ヘッドプレッシング（長時間壁に頭を押し付ける行動）などの神経症状が見られます。これらのような神経症状が見られ、基礎疾患が肝疾患や門脈体循環シャントで、血中アンモニア濃度が高値であった場合に総合的に肝性脳症と診断されます。

急性期の肝性脳症の症例は、一般状態は悪く、昏睡や混迷状態になっていることがあります。低体温になっている場合も多く、また高アンモニア血症の陰に隠れて低血糖症を併発している場合もあります。凝固不全やDICを引き起こして多臓器不全になることもあります。

犬の肝性脳症の原因とは

主な原因はアンモニアの毒性です。

肝性脳症の主な原因はアンモニアの毒性です。消化管で生成されたアンモニアは門脈を介して通常は肝臓で解毒されますが、肝機能の低下や門脈体循環シャントによって門脈血が体循環にバイパスすると高アンモニア血症が起こります。

アンモニア以外の肝性脳症の原因としましては、炎症とマンガンが挙げられます。先天性門脈体循環シャントでは、肝性脳症を引き起こす徴候を示す症例でのCRPの高値が報告されています。炎症性サイトカインは、脳血流量を増加させ、脳血液関門のアンモニアの透過性を高めることが知られています。また、高アンモニア血症になると好中球の貪食能が低下するため、易感染性になる可能性が示唆されています。
マンガンは、神経毒性を示す食事由来の必須微量元素ですが、先天性門脈体循環シャントの症例ではマンガンの脳内濃度が高濃度になることが知られており、アンモニアとともに肝性脳症の憎悪因子として挙げられます。

犬の肝性脳症の好発品種について

以下の犬種で好発がみられます。

肝外性の先天性門脈体循環シャントの好発犬種とされるヨークシャーテリア、マルチーズ、シーズー、トイプードル、ミニチュアダックスフント、パピヨン、ミニチュアシュナウザー、肝内性の先天性門脈体循環シャントの好発犬種とされるゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、アイリッシュウルフハウンド、バーニーズマウンテンドッグなどは肝性脳症の好発犬種と言えます。

慢性肝炎の好発犬種とされるアメリカンコッカースパニエル、イングリッシュコッカースパニエル、ウエストハイランドホワイトテリア、ダルメシアン、ドーベルマン、べドリントンテリア、ラブラドールレトリバーなどは肝性脳症の好発犬種と言えます。

犬の肝性脳症の予防方法について

基礎疾患の早期発見、早期治療をおこないます。

基礎疾患となる肝疾患や門脈体循環シャントの早期発見、早期治療をおこなうことが肝性脳症の予防につながると言えます。

犬伝染性肝炎を引き起こす犬アデノウィルス１型は、ワクチンがあるためワクチン接種が肝性脳症の予防につながる可能性があります。

犬の肝性脳症の治療方法について

急性期の肝性脳症

高アンモニア血症に続発する脳浮腫により頭蓋内圧の亢進が疑われるため、脳圧降下処置をおこないます。意識混濁が疑われる場合には、頭蓋内圧の上昇を防ぐ目的で頭を３０度程度傾けて寝かせてあげると良い場合があります。

沈うつが認められる場合は、脳圧降下処置をおこない、アミノ酸点滴をおこなうことで基本的には多くの症例で症状が改善します。

慢性期の肝性脳症

慢性期の肝性脳症の治療は、肝性脳症の急性憎悪を避けるための治療となります。

市販されている肝疾患用の蛋白制限食を基本として給与します。ただし、過剰な蛋白質の制限は病態をより悪化させる要因と言われており、注意が必要です。

腸内におけるアンモニア産生の抑制のために、ラクツロースを１日２～３回投与し、便の状態を見ながら量を調節します。軟便になる程度に調節することが大切です。

高アンモニア血症のコントロールが困難である場合には、亜鉛製剤を投与することが推奨されています。亜鉛は尿素サイクルの重要な構成成分であり、さらに筋肉でアンモニアを解毒する場合に、グルタミン酸とアンモニアが反応してグルタミンを合成しますが、このグルタミンシンテターゼの構成成分のも亜鉛が含まれます。

食事療法とラクツロースでコントロールできない肝性脳症の場合は、抗菌薬を投与する場合があります。