知っておきたい皮膚の基礎知識
とても大切な皮膚の役割
皮膚は、犬や猫の体全体を覆って外界から身を守ってくれる、大切な組織です。その役割は、多彩で重要なものです。まずは、皮膚の役割からみていきましょう。
1. 体の形を保つ役割
皮膚はひっぱったり叩いたりこすったりしても崩れることがなく、元の状態に戻ります。その皮膚が全身を覆っているため、体の形がしっかりと保たれているのです。
2. 感覚器としての役割
圧迫されている感覚や、温度、痛み、かゆみなどの感覚を、皮膚を通して得、感覚中枢に伝えています。
3. 体温を調整する役割
外気温に合わせて皮膚の血管が拡張したり収縮したりすることで、体温の調整を行います。また、季節による換毛や、分泌物の量を調整することでも体温を調節します。
4. 外敵から身を守る皮膚バリア機能としての役割
皮膚がバリアとなり、外からの異物の侵入を防ぎ、内からの必要物の漏出を防いでいます。この皮膚バリア機能が低下することにより、皮膚はさまざまなトラブルを起こします。人を始めとした犬や猫などの陸上で生活する動物たちは、紫外線や乾燥などの過酷な環境に適応するために皮膚バリア機能を獲得し、とても大切な役割を果たしているのです。
5. 免疫機能を調整する役割
皮膚には、ランゲルハンス細胞がたくさん存在しています。この細胞は、皮膚バリア機能を破って侵入してきた異物を貪食し、記憶したりその異物に対する抗体を産生するために重要な役割を果たします。
皮膚バリア機能を支える皮膚の構造
皮膚は、体の奥の方から順に、皮下組織、真皮、表皮の3層で構成されています。皮下組織は主に脂肪組織で構成され、エネルギーの貯蔵や外圧に対するクッションとして働きます。真皮は皮膚の強靭なしなやかさを形成する繊維(コラーゲンなど)が豊富に存在しているところで、神経、リンパ管なども存在します。
前述の皮膚バリア機能の中核を担っているのが表皮です。犬や猫は、全身が被毛で覆われているため、人と比べると表皮が薄いのが特徴です。表皮は、真皮に近いところから基底層、有棘層、顆粒層、角質層と4つの層になっており、最も若い角化細胞が基底層を構成し、細胞の老化と共に徐々に上の層に移動し、最終的には角化細胞の死骸が最も外側の角質層を構成して最終的にはフケとなります。この、角化細胞がフケとして脱落するまでの時間をターンオーバーと呼び、健全な犬や猫では約3週間といわれています。フケが多いと感じる場合は、ターンオーバーが短くなってしまった状態です。脂漏症などの角化異常症かもしれません。
表皮の内、基底層から顆粒層までの3層は、角化細胞が密に積み重なった、タイルの壁のような構造をしています。しかし、最も外側の角質層は異なった構造をしています。角質は、生物が生活の範囲を水中から陸上へと広げた時点で新しく獲得した強力な皮膚バリア機能なのです。
角質層は、角質細胞が何重にも積み重なって形成されており、ケラチンやフィラグリンなどのタンパク質が重要な役割を果たしています。そして、角質細胞間脂質(セラミド、コレステロールエステル、遊離脂肪酸などの脂質)が角質細胞同士をつないでいます。角質細胞間脂質は水分の保持にも役立っており、これらがバリア機能に貢献しているのです。特にセラミドは水分の保持能力が高く、角質細胞間脂質の中でも特に大きな割合を占めています。
皮膚に付随する組織
皮膚に付随する組織としては、被毛も重要な存在です。表皮と同じように皮膚バリア機能に貢献している他、体温調節、感覚器、犬同士・猫同士のコミュニケーションツールとしても機能しています。
また、脂腺や汗腺などの分泌腺も重要な組織です。脂腺は皮脂を産生します。粘膜と皮膚の境界部や皮膚と皮膚が重なるシワなどのような部分、頸背部、腰部、顎に多く存在し、肉球や鼻鏡にはありません。皮表をコーティングして異物の侵入を防ぎ、また保湿作用や抗菌作用も持っています。汗腺は汗を産生する分泌腺で、アポクリン汗腺とエクリン汗腺の2種類があります。アポクリン汗腺は被毛のある部分、特に背部に多く存在し、粘稠性があり、体臭やフェロモンに関わる汗です。エクリン汗腺は直接皮膚の表面に汗を放出し、体温調整に貢献します。人はほぼ全身にエクリン汗腺を持っていますが、犬や猫には肉球にしか存在しないため、発汗で体温を調整することができません。犬にとって、エクリン汗腺がどのような役割をしているのかは分かっていませんが、緊張や興奮により発汗するため、猫は樹上における滑り止めの役割があるのではないかといわれています。
さらに、皮膚の表面にはさまざまな常在微生物が存在し、皮膚を健全な状態に保っています。これらの常在微生物のバランスが崩れると、皮膚にさまざまなトラブルを起こす要因となります。
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