本当は怖い犬糸状虫症…!しっかり予防できていますか?
犬糸状虫症は、内服薬や注射薬で予防が推奨されている寄生虫疾患です。
しかし、地域によっては予防の意識が浸透していないためか、まだまだ日本でも発生が絶えない状況です。
蚊が媒介する、心臓に寄生するといった知識はあるけども、具体的にどんな症状が出て、どんなことに注意をすべきかといったことに関しては知らない方も多いのではないでしょうか。
犬糸状虫症についての正しい知識があれば、今後の予防の意識に変化が見られるかもしれません。
犬糸状虫(フィラリア)の生活環
犬糸状虫は以下のステップによって生活環を維持しています。
1.フィラリアは、心臓の肺動脈に寄生します。
2.寄生から約6~7カ月で成熟し、雌の成虫は子虫(ミクロフィラリア)を産出します。
3.ミクロフィラリアは犬の血液中を流れ、それが蚊に吸われます。
4.蚊の体内に入ったミクロフィラリアは成長し、2回の脱皮を経てL3(第3期幼虫)になります。
5.L3は蚊の口吻に移動し、感染の機会を待ちます。
6.蚊が別の犬を吸血した際に、L3は犬の体内に移動します。まだ血液中には入りません。
7.皮下組織や筋肉、脂肪内でL3は約3か月かけて発育し、血管内に移動します。
8.心臓の右心室に戻ってきた子虫は肺動脈で成熟し、1.に戻ります。
犬糸状虫症(フィラリア症)の概要と症状
犬糸状虫の寄生によって、体内では様々なことが起こります。
・肺動脈寄生症
成虫が本来の寄生部位である肺動脈に寄生して起こる病態です。
症状は寄生数などによって異なりますが、疲れやすい(運動不耐性)、咳、貧血、呼吸困難、腹水貯留が見られます。
・大静脈症候群
成虫が、本来の寄生部位である肺動脈から三尖弁口部に移動し、三尖弁機能を障害することで著しい循環不全と血管内溶血を呈します。
症状は急性経過を辿り、肺水腫による呼吸困難、血色素尿、黄疸などを突然発症し、ショック状態に陥ります。
・幼虫移行症
犬の体内を移行する幼虫が臓器に迷入して起こります。
脳や脊髄への迷入によって運動麻痺や痙攣などの神経症状が、眼の前眼房に迷入すると前眼房混濁や虹彩炎が起こります。
・アレルギー性肺炎
多数のミクロフィラリアが肺の毛細血管内で死滅することによって、そこに好酸球が集まり、肺炎や肺水腫を示します。
・糸球体腎炎
ミクロフィラリアまたは犬糸状虫成虫抗原が関与する免疫複合体が腎臓の糸球体に沈着することで、高率に糸球体腎炎が見られます。
この場合、軽度のタンパク尿が検出されます。
犬糸状虫症(フィラリア症)の治療
新たに蚊から体内に侵入してきたL3を駆虫しながら、成虫の寿命が来るのを待つ治療が主流となっています。成虫の寿命は5年ほどと言われており、治療には長期間を要します。
この際、L3の駆虫とともにミクロフィラリアも死滅するため、それによるアレルギー反応には注意が必要となります。
海外ではヒ素剤による成虫の駆虫も行われていますが、死滅した成虫が血管に塞栓するリスクも高く、また、日本ではヒ素剤の認可が下りていないことから、国内では一般的ではありません。
開胸手術によって心臓から虫体を摘出する治療もありましたが、全身麻酔のリスクが高いことや、侵襲性が高いことから、現在ではあまり行われていません。
犬糸状虫症(フィラリア症)の予防
感染すると命に関わり、治療も長く続くフィラリア症ですが、定期駆虫によって予防することが可能です。
駆虫薬の剤形も様々で、愛犬に合ったものを選ぶことが出来ます。
・錠剤
・チュアブル:おやつ感覚で投与出来ます。
・注射薬
・滴下薬:首元に垂らすだけのタイプです。
いずれのタイプでも効果に大きな差はありません。
ここで大切なのは、予防期間です。
予防薬は、蚊が発生し始める時期から、蚊の発生が終わってから1か月後まで投与する必要があります。
フィラリアの予防薬は、厳密には「予防」する薬ではありません。
体内に侵入したL3を駆虫する薬であって、フィラリアの幼虫をその都度リセットしているのです。
蚊の発生が終わり、最後の予防薬投与が行われないと、蚊のいない冬の間に幼虫が成長して、春には成虫になってしまう可能性があります。
よって、蚊の発生終了から1か月後まで予防薬は必要なのです。
また、毎シーズン予防薬投与の前には血液検査によって、体内にフィラリアの成虫がいないことを確認します。
万が一体内に成虫がいると、予防薬の投与によって重篤なアレルギー反応が起きる可能性があるからです。
予防薬の中には、お腹の寄生虫の駆虫や、ノミ/ダニの予防も兼ねているものもあります。
蚊の発生の時期に関わらず、年間を通じてフィラリアの予防薬を服用することにより、他の寄生虫の脅威からも愛犬を守ることが出来ます。
猫の犬糸状虫症?
犬糸状虫という名前の寄生虫ですが、近年の研究では猫にもフィラリア症が起こることがわかっています。
猫の場合、犬に比べて少数のフィラリア寄生数で重篤な症状を引き起こします。
これは、猫の心臓や血管が、犬よりも小さく細いためです。
そのため、犬と同じような治療が出来ないこともあります。
また、室内飼育だとしても安心は出来ません。
人間が外から蚊を持ってくることもあります。
高層階だとしても、エレベーターに蚊が乗ってくることもあります。
室内飼いの猫の40%が、フィラリアの幼虫を保有していたというデータもあります。
猫での予防薬も、もちろんあります。
ノミ/ダニの予防も兼ねている場合もあるので、獣医師に相談してみてください。
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