犬と猫に全身麻酔をかけるまでの流れ
全身麻酔とは
全身麻酔は「鎮静(意識がない)」「鎮痛(痛みがない)」「筋弛緩(体が動かない)」という3つを満たした状態です。処置や手術を苦痛や不安がない状態で安全に行うためになくてはならないものです。人間であれば、全身麻酔をかけずに局所麻酔でいろいろな検査や処置が可能です。しかしながら、なぜそのような処置が必要なのかを理解できない動物にとっては、動かないように無理やり押さえつけられ痛い思いをするのは非常に強いストレスを受けることになります。そういったストレスは回復を遅らせてしまったり、思わぬトラブルの元になることがあります。そのため、全身麻酔は獣医療にとっては必要不可欠ですが、同時にリスクを負わなければならないものでもあります。麻酔リスクは心肺機能への影響が最も多く、呼吸の抑制や血圧の低下といった形で現れると考えられます。特に健康状態に問題がない動物でも0.1〜0.3%くらいの確率で麻酔トラブルが起こるというデータがあります。
麻酔前検査
麻酔リスクには予測できるものと予測できないものがあります。予測できるリスクとは、心肺機能や肝機能、腎機能といった検査で確認できるものです。これらを除外するために、必ず麻酔前検査を行います。検査内容は病院によって異なりますが、一般的に血液スクリーニング検査と胸部レントゲン検査を行うことが多いようです。血液スクリーニング検査では体の全体的な状態を調べます。栄養状態、血糖値、電解質バランス、肝臓や腎臓の状態をチェックします。胸部レントゲン検査では心臓や肺の画像上の異常がないかどうか調べます。他にも、尿検査や超音波検査を行ってより詳しく検査することもあります。こういった検査で異常所見があり麻酔リスクが高いと判断された場合は、治療可能なものは麻酔を延期して必要な治療を行ったり、治療不可能なものは麻酔をかけることを諦めることもあります。
点滴
基本的に麻酔前には点滴をします。その目的は、脱水の改善と麻酔時の血圧低下への対策です。全身麻酔をかける時は誤嚥防止のため絶食になります。絶食すると体が脱水傾向になるため、点滴によって改善させます。また、全身麻酔をかけると血圧が低下します。その対策として循環血液量を点滴によって増やします。
麻酔前投薬
全身麻酔をかける前に、鎮静剤や鎮痛剤を投与します。鎮静剤は神経質な動物を落ち着かせたり、麻酔導入薬の量を減らすという目的で使用します。痛みは動物に強いストレスを与え、麻酔が不安定になったり術後の回復が遅れる要因になります。そのため、麻酔をかける前から鎮痛剤を投与します。鎮痛剤には麻薬指定されているものとされていないものがあり、麻薬指定の薬剤を取り扱うためには獣医師が取り扱い免許を取得する必要があります。鎮静剤も鎮痛剤も注射で投与することが多いです。
麻酔導入
いよいよ麻酔をかけます。ここでは麻酔導入薬を使った方法を解説します。一般的な動物病院では気管チューブという管を気管の中に入れて、そこにガス麻酔を流して麻酔状態を維持することが多いのですが、動物が起きた状態では気管挿管ができないため、意識を消失させるために麻酔導入薬を使用します。導入薬を静脈注射することで動物の意識がなくなり、挿管が可能になります。
維持麻酔
ガス麻酔と酸素を気管チューブから体内に流すことで全身麻酔状態を維持します。全身麻酔中は定期的に動物の状態を確認します。心拍数や呼吸数、酸素飽和度、血圧、体温などがモニタリング項目になります。麻酔が効いていないと痛みに反応して状態が不安定になることがあり、麻酔が効きすぎると血圧低下などが重度になり命に関わることがあります。そのため、これらの中間のちょうどいい状態で安定するように維持します。手術や処置が終わるとガス麻酔を切ります。ガス麻酔は数分で体内から消失するため、そのタイミングで動物の意識が戻ります。モニタリング項目に異常がないかを確認したら終了です。その後も数時間は注意深く状態を確認します。
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