ウィズぺティウィズぺティ
初めての方へ会員登録ログイン買い物かご
健康ライブラリー > 糞便検査の重要性

糞便検査の重要性

獣医師
高木俊輔
[記事公開日]  [最終更新日]
犬を飼って動物病院に通った経験のある方なら、一度は犬の糞便検査をやってもらったことがあると思います。下痢をした時には身体検査と並んで必ず行う検査であり、ほとんどの動物病院で健康診断の検査項目にも組み込んでいるからです。とても身近な検査である糞便検査について、検査を行う目的、検査で分かることと分からないこと、検査の方法、注意点について解説します。
[ 目次 ]
糞便検査の重要性
糞便検査は下痢をした時や健康診断時に行う検査です。尿と比べると採取が非常に簡単ですが、とても多くの情報が詰まっています。しかしながら、他の検査と同じように1回の検査結果だけで確定診断が出るわけではないため、糞便検査で分かること、分からない可能性のあることをきちんと理解する必要があります。

糞便検査の目的は?

一つは消化管にいる寄生虫を見つけることです。特にペットショップやブリーダーなど、多くの子犬が集まっている環境にいた子犬からは、寄生虫が見つかる可能性が高くなります。そのため、犬を飼ったら下痢をしていなくても一度は糞便検査をしておいた方がいいでしょう。

もう一つの目的は、下痢をした場合にその原因を調べることです。寄生虫もそうですし、腸内細菌に異常がないか、消化吸収不良がないか、細胞成分がないかを調べます。

糞便検査で分かること、分からないこと

糞便を調べる検査であるため、分かることは主に糞便の肉眼レベル・顕微鏡レベルの状態です。

肉眼的には、色や硬さ(軟らかさ)、粘膜の状態を確認します。他にはにおいも重要な情報です。血液が付いて赤くなっていれば血便、白っぽければ脂肪便、というように色で便を分類します。硬さ(軟らかさ)は下痢がどの程度のレベルなのかを確認します。水分が多ければ多いほど下痢が重度であり、腸の状態が悪かったり脱水が起こっている可能性を考えます。また、便というよりスライム状の粘膜が大量に出てくることもあります。これも腸の状態が悪いことを示唆する所見です。

顕微鏡を使った検査では、消化状態に問題がないか、腸内細菌のバランスに問題がないか、異常な細菌はいないか、寄生虫はいないか、寄生虫の卵はいないか、異常な細胞成分は出ていないかといったことを調べます。
消化状態は未消化物の状態から判断します。正常な便でも多少は未消化物がありますが、多数出ていると異常=消化吸収不良だと考えます。炭水化物・脂質・タンパク質それぞれで消化状態が異なり、食事内容によっても解釈は変わってきます。炭水化物・脂質・タンパク質全ての未消化物が多数みられた場合、膵外分泌不全という病気が疑われます。

腸内細菌は非常に多くの菌種から構成され、食事内容や体調によってそのバランスは変化します。細菌はその形態から、丸い球菌と細長い桿菌に分類されますが、通常は球菌と桿菌のバランスがだいたい半々程度です。下痢を起こしてどちらかの細菌が異常に増えていてバランスが崩れていたら異常だと考えます。

異常細菌は、下痢を起こす可能性のある細菌です。正常でも多少はみられますが、多数いた場合はそれが原因となって下痢をしていると考えます。

寄生虫にはさまざまな種類がありますが、原虫という種類は肉眼では確認できないため、顕微鏡でその存在を確認する必要があります。コクシジウム、ジアルジア、トリコモナス、糞線虫といった原虫が要注意です。回虫を代表とする線虫という種類は、成虫は肉眼で確認可能ですが虫卵は顕微鏡で確認します。

細胞成分では赤血球や白血球といったものがみられることがあります。赤血球があるといわゆる血便になります。白血球は大腸炎のような炎症があると出現することがあります。

以上が糞便検査で分かることです。反対に、消化管の異常の中で糞便検査での検出感度が高くないものもあります。大腸がんのような腫瘍やポリープといったできものについては診断精度は低いと考えられています。便の中にはさまざまな物質が混ざっているため、細かく細胞を分類するといったことはできません。

糞便検査の方法は?

一般的には直接法と浮遊法の2種類を行います。

直接法は下痢の原因を見つけるために行う検査です。スライドグラスに便を付けて生理食塩水で溶かして標本を作成し、顕微鏡で観察します。前述の糞便検査で分かることのうち、ほとんどは直接法で観察します。

浮遊法は消化管にいる寄生虫の虫卵を確認するために行う検査です。

直接法と浮遊法を行っても問題が見つからなかった場合は、対症療法を行いながら必要に応じて特殊な検査を追加したり、消化管内視鏡検査に進むことになります。

糞便の採取

動物病院に検査のために糞便を持参する場合は、できるだけ新鮮なものにしましょう。ジアルジアやトリコモナスといった運動性の原虫を検出するためには、採取して2〜3時間以内の冷やしていない新鮮便が必要になります。採取してから時間が経つと細菌の分布が変化するなど、検査結果の信頼性が低くなってしまいます。どうしてもすぐに動物病院に行けない場合は、病院でお尻から直接糞便を採取してもらえるため、無理に家で採取しなくても大丈夫です。下痢の状態を確認してもらう場合は写真を撮っておきましょう。

糞便検査の注意点

下痢をして動物病院を受診すると、まずは経過の聞き取りをして身体検査をして糞便検査をします。例えばここで寄生虫が見つかれば、その寄生虫が原因で下痢をしていた可能性が高いと考えて駆虫薬が処方されます。その結果下痢が治まり、再発がなければその診断は正しかったということになります。

問題は、本当は消化管の中に寄生虫がいてそれが原因で下痢をしているのに、糞便検査で寄生虫が見つからなかった場合です。検査で未消化物しか見つからなければ「消化不良」という診断になります。その時は下痢止めと整腸剤が処方されますが、原因が寄生虫であればそれだけでは治らない可能性が高くなります。寄生虫の中には複数回糞便検査を行ってようやく見つかることもあるのです。そのため「消化不良」という診断であっても、きちんと薬を飲ませて症状が落ち着き、ぶり返さないかどうかは注意深く観察してください。

ページ先頭へ