卵巣遺残症候群について
避妊手術を行ったにも関わらず発情のような症状がみられた場合はこの病気が疑われるため、症状や外陰部からの分泌物の検査、ホルモン測定、画像検査などで診断を行います。
治療は外科手術が基本になりますが、ホルモン注射のような内科的治療を行うこともあります。
性ホルモンに関連した病気はいくつかありますが、中でも注意が必要なのは乳腺腫瘍と子宮蓄膿症です。
乳腺腫瘍は、前足の付け根から後ろ足の方にかけて存在している乳腺組織に腫瘍ができるもので、犬では約50%が悪性(最近では50%以下だと考えられています)、猫では約90%が悪性とされています。良性だった場合は手術で摘出すればおしまいですが、悪性だった場合は転移をしてしまう危険があります。若いうちに避妊手術をすることで、乳腺腫瘍は予防可能です。
子宮蓄膿症はその名の通り子宮に膿が溜まってしまう病気で、発見が遅れると敗血症に陥り命に関わることもあります。こちらも病気を発症する前に避妊手術をすれば予防可能です。
避妊手術をすればこういった病気も予防できますし、発情行動もなくなります。しかし、ごくまれに避妊手術をしたのに、しばらくしてから発情行動が出るようになったり、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症を発症してしまうケースがあります。
こういった場合には、動物の体内に卵巣組織が残っていて、それが機能を発揮している可能性を考えなくてはなりません。これを卵巣遺残症候群と呼びます。
原因は?
犬と猫の避妊手術は、卵巣だけを摘出する方法(卵摘)と、子宮と卵巣の両方を摘出する方法(全摘)があります。どちらにしても発情を起こす原因になる性ホルモンを放出する卵巣は摘出するため、手術後は発情は出ないはずですが、以下のような原因で卵巣遺残症候群が起こると考えられています。
①手術時に完全に卵巣を摘出できていなかった。
②手術時に摘出をする卵巣の破片が体の中に落ちてしまった。
③過剰卵巣(卵巣が3つ以上ある状態)だった。
④異所性卵巣(卵巣が他の場所にある状態)だった。
⑤副卵巣(卵巣のすぐそばにある)があった。
⑥卵巣が再生した。
犬の卵巣は卵巣嚢という袋のような組織に包まれているため、①の不完全な摘出になってしまうことがあると言われています。特に大型犬や太っている犬では避妊手術がやりにくいため、こういったことが起きやすいようです。
犬に比べると猫の卵巣ははっきり見えるため、不完全な摘出になることは考えにくく、⑤の副卵巣が原因になることが多いようです。副卵巣は卵巣があると機能しませんが、卵巣を摘出すると機能を発揮するようになります。他にも④の異所性卵巣や⑥の卵巣の再生も報告があります。
つまり、手術が失敗したと言えるケースもあれば、手術は適切に行われたにも関わらず、動物側の要因で卵巣遺残症候群が起こるケースもあるということになります。
症状や診断方法は?
飼い主さんが気付くのは、避妊手術をしたのに発情徴候が出てくることです。これは手術後数ヶ月から数年経ってからみられるようになります。
犬の場合、外陰部が大きくなったり外陰部からの出血がみられるようになります。ただし外陰部からの出血については、卵巣のみを摘出している場合にはみられますが、子宮を摘出している場合はみられません。
猫は鳴き声が変わったり、動きが変わったり、お尻を突き出すような、いわゆる「さかりが来たような」行動がみられるようになります。最初はあまり目立たないものの、発情を繰り返すたびに徐々に強くなっていく傾向があります。
こういった症状がみられてから病院に行くと、陰部からの分泌物を顕微鏡で調べることで、特徴的な細胞が見つかれば診断できます。また、血液を採取して性ホルモンを測定することでも診断が可能です。画像検査で分かることもありますが、卵巣の位置や状態によっては分からないことも多いようです。
卵巣が体内に残っていると避妊手術をしていないのと同じことになるため、子宮(断端)蓄膿症を発症することもあります。その場合、元気や食欲がなくなったり、お腹が張ってきたり陰部から膿が出たりします。この場合は症状や画像検査で診断します。
治療法は?
外科治療と内科治療があります。
基本的には体の中に残ってしまった卵巣を摘出する外科治療が推奨されます。
ただし卵巣組織は小さいため、卵巣が大きくなっているタイミングで手術をした方がいいとされています。発情後、少ししてからがいいようです。しかしながら、事前にCT検査などを行わずに正確な位置がわからない場合、傷口の大きさは最初の避妊手術に比べてかなり大きくなってしまうことが多いようです。
飼い主さんが手術を希望されない場合は、内科治療を行うことがあります。ただし、この場合に使用する発情抑制剤は、長期間使うことによって体重の増加、子宮断端蓄膿症(子宮が残っている場合)、乳腺腫瘍といった副作用が出てしまう危険があります。そのため、内科治療を選択される場合は、獣医師とよく相談してください。
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