犬との絆の結び方
生物の生き残り戦略
ダーウィンが「種の起源」の中で著した進化論は有名なので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。ダーウィンの進化論は、現生のすべての生物は共通の祖先から長い年月をかけて進化してきた結果であるという考え方です。
進化を説明する時に必ず出てくる重要な言葉が「変化」です。しかしこの変化は、ある目的のために意図して行われる訳ではなく、偶然の賜です。たまたま起きた変化がその生物が生存環境を生き抜く上で有利なものであったため、生存競争に勝ち残った。勝ち残れなかった生物は滅びていったという、適者生存の考え方なのです。
この進化の中で、動物、特に哺乳類は、群れのメンバー同士が弱い者を守りあったり、仲間の存在がストレスを緩和したりするような、神経の反応システムと行動様式を獲得し、発達させてきたことが分かっています。つまり、共感し、愛情という絆を結ぶようになったのです。
ボウルビーの愛着理論
イギリスの児童精神分析学者であるジョン・ボウルビーは、親密な絆を形成しようとする愛着行動に関する理論を提唱しました。動物は、自分の要求や訴えに応えてくれる養育者との間に愛着が形成されるようにするための行動を、生まれながらに知っているというものです。例えば、人の赤ん坊は泣いたり甘えたりすることで母親に子供への深い愛情を抱かせるというものです。
日本の共同研究グループによる実験
ボウルビーの愛着理論は、マウスや人の母子間といった、同種の生物間でのみのものであると考えられていました。しかし、2015年4月、米科学誌サイエンスに、犬と人がアイコンタクトや触れ合いでお互いの親近感を高めているという分析結果が報告されました。日本の麻布大学、自治医科大学ならびに東京医療学院大学の共同研究グループによる成果でした。
この研究グループは、30組の犬と飼い主を30分間部屋で遊ばせて、尿に含まれるオキシトシンの濃度変化を調べました。オキシトシンは、母乳の分泌などを促し、相手を信頼したくなる心理的な効果があるホルモンで、愛情ホルモンとも呼ばれているものです。
その結果、長時間見つめあったり触れ合いや声掛けをしていたペアは、共にオキシトシンの値が上昇しました。特に、飼い主のオキシトシンは約3倍に急増したそうです。一方、話したり触れ合ったりを禁じられたペアは、オキシトシンの濃度に変化は見られませんでした。
つまり人と犬では、種の壁を越えて、アイコンタクトや触れ合い、声掛けによって、主従関係ではなく母子間と同じような絆を築けることが分かったのです。
なお同じ実験を、人と人に飼育されたオオカミの間で行っても、オキシトシンの値は双方共に変わりませんでした。その際、幼少期から人と一緒に生活をしてきて親密な関係を築いているのに、ほとんどのオオカミは飼い主の顔を直接見ないことが分かりました。
犬と絆を結ぶためのポイント
以前は、人が犬と一緒に暮らす理由の多くが「番犬として」でした。しかし、大型犬も含めて室内飼育が一般的になりつつある現在、犬と一緒に暮らす理由は「好きだから」「一緒にいると楽しいから」「可愛いから」に変わってきました。人の方も、もしかすると犬との間に母子関係に近いものを求めているのかもしれません。
先にご紹介した研究の結果から、人と犬の間で絆を結ぶためのポイントは、「アイコンタクト」「声掛け」「触れ合い」ということだと言えるでしょう。
愛犬と深い絆を結ぶことを望むのであれば、次のことに注意をすると良いでしょう。
・アイコンタクト
犬と一緒に暮らし始めたばかりの方は、飼い犬とアイコンタクトを取れるようにトレーニングすると良いでしょう。愛犬と触れ合う時には、きちんと犬の目を見つめることを心がけてください。アイコンタクトは、犬と人の双方に幸福感をもたらし、互いの愛着度を深めます。
・声掛け
犬は、文章を理解することはできませんが、人が発する単語とイントネーションから、飼い主さんの気持ちを読み取れると言われています。愛犬と接する時は、気持ちを言葉にして話しかけるようにしましょう。特に褒める時には、笑顔で心から喜びの気持ちを伝えましょう。
・触れ合い
触れ合いも、犬と人との絆を深めます。ただ撫でるだけではなく、アイコンタクトと声掛けをしながら、犬の喜ぶ部位をマッサージするように撫でると良いでしょう。犬が自分では掻いたり舐めたりできない場所を撫でると喜ぶことが多いです。
愛犬の気持ちを読み取るポイント
飼い主さんの気持ちをアイコンタクト、声掛け、触れ合いにより伝えたら、愛犬の気持ちも読み取る努力が必要です。犬のしぐさから読み取れる気持ちについて、下記を参考にしてみてください。
・「嬉しい」
目に輝きがある、耳や尻尾がピンと立っている、人の笑顔に似たような表情。これらのしぐさや表情は、犬の嬉しいとか楽しい、喜びといったポジティブな気持ちを表しています。
・「嫌だ」
犬があくびをしたり目をそらす時は、ネガティブな気持ちでいることが多いです。何かストレスを感じているので、その原因を探ってあげましょう。
・「興奮」
犬は、興奮すると尻尾を振ります。ポジティブな場合もネガティブな場合も同じです。よく、嬉しい時に尻尾を振ると言いますが、ネガティブな興奮時も尻尾を振るので見極めが必要です。
・「要求」
何か要求がある時や伝えたい事がある時には、甘えの行動をとります。足元にまとわりついたり上目遣いでクンクンと鳴いたりして、甘えて注意を引こうとしている場合は、要求があるサインです。要求内容を見極め、甘やかしすぎずにバランスをとって対応しましょう。
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