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犬と猫の食欲増進剤ってどんな薬?

獣医師
松本 千聖
[記事公開日]  [最終更新日]
数ある症状の中でも「食欲不振」はオーナーさんが最も気づきやすく、かつあらゆる病気に当てはまる症状の1つだといえます。そのため、「食欲不振」で通院される方はとても多く、中には検査を行っても原因を見つけることができない場合もあります。
 シニア期や終末期などで動物の食欲が低下した際に食欲増進剤を使用することは動物の状態をより悪化させる可能性もあるため注意が必要ですが、術後の回復期などにおいては食べることが治療になる場合もあります。
 よって今回は、犬と猫に食事を食べてもらう必要がある時に使用することができる食欲増進剤について解説していきたいと思います。
[ 目次 ]
犬と猫の食欲増進剤ってどんな薬?

そもそも食欲とは?

食欲は、脳の視床下部にある「摂食中枢」と「満腹中枢」という2つの中枢でコントロールされています。
血液中のブドウ糖の濃度を「血糖値」といいますが、血糖値は食後上昇し、その後さまざまな活動により体内のエネルギーが消費されると低下していきます。すると、エネルギーを作り出そうとする働きが生じて体内に蓄えられていた脂肪が分解されて、「遊離脂肪酸」という物質が血液中に増えてきます。この遊離脂肪酸によって摂食中枢が刺激されて空腹感となって、食欲がわいてきます。また、胃の中が空っぽになることによって、胃の交換神経やホルモンによって摂食中枢に刺激が伝わり、食欲がわくとも考えられています。
反対に、食事で体内にエネルギーが補給されると血糖値が上昇することによって満腹中枢が刺激されて満腹感が発生するとともに摂食中枢は抑制されます。また、胃に食べ物が入ることによって胃壁が伸びると、その変化に副交感神経が反応して満腹中枢を刺激し、満腹感を起ことも考えられています。

犬と猫に使える食欲増進剤、ジプロへプタジン(製品名:ペリアクチン)

アレルギーを引き起こすヒスタミンなどの物質の働きをブロックすることでアレルギーによる皮膚の痒みなどの症状を改善するために使用されるアレルギー性疾患治療薬です。ヒスタミンには食欲を抑える働きもあるため、これをブロックすることによって反対に食欲を増加させるといった副作用を食欲増進剤として利用しています。
錠剤の内服薬ですが、犬では猫よりも代謝排泄されるスピードが早いため、食欲増進剤としての効果は弱いといわれています。

犬と猫に使える食欲増進剤、ミルタザピン(製品名:レメロン) 

ノルアドレナリンやセロトニンなどの物質を増やす作用によって人間の医療ではうつ病や不安障害(パニック障害、社会不安障害など)の治療に使用されています。また、ミルタザピンにはヒスタミンをブロックする作用もあるため近年では人の食欲不振に対する治療薬としても幅広く使用されています。
 犬と猫においても人間と同様に食欲増進剤として使用されており、日本では錠剤の内服薬しか、まだ販売されていませんが海外では猫用の耳に塗る外用薬としても処方されています。

犬と猫に使える食欲増進剤、ジアゼパム(製品名:ホリゾン、セルシン)

ジアゼパムは脳にあるベンゾジアゼピン受容体に作用することによって、GABAという脳の神経細胞の活動を抑える働きがある神経伝達物質の効果を強くする、ベンゾジアゼピン系抗不安薬です。犬と猫においては抗てんかん薬や麻酔前投薬・麻酔導入併用薬としても使用されています。
 GABAには摂食中枢を刺激する作用もあると考えられているため食欲増進剤としても利用されています。静脈内投与と経口投与の2つの投与方法があり、食欲増進剤としては経口投与によって与えますが、猫には繰り返し投与すると重度の肝不全に進行する可能性があるため積極的な使用は推奨されていません。

犬に使える食欲増進剤、カプロモレリン(製品名:エンタイス)

空腹になると胃から血液中にホルモンが分泌され、脳の摂食中枢に作用することによって
食欲がわきますが、このホルモンは「グレリン」とよばれています。
アメリカにおいて、このグレリンの作用と似た働きをもつ新たな犬の食欲増進剤が2017年より販売されました。犬が好むバニラの甘いフレーバー付きの液体のため、スムーズに投与できることが期待されています。

犬と猫に食欲増進剤を使用する際の注意点

食欲増進剤は、治療薬ではなくあくまで対症療法の1つとして捉える必要があります。よって、もし愛犬や愛猫に「食欲不振」の症状が見られたら、すぐに食欲増進剤を使用することは避けて、まずはかかりつけの動物病院を受診するようにしましょう。
 また、カプロモレリン以外の食欲増進剤は基本的にはその薬剤の本来の作用ではない副作用を利用しているもののため、使い方によっては体に良くない反応をもたらす可能性もあるため慎重に投与することをおすすめします。

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