犬の先天性心奇形、心室中隔欠損とは?症状や治療について解説!
子犬を飼う上では先天性疾患の知識は非常に重要であり、獣医師としても飼い主さんに啓蒙していきたいことの一つです。
本記事では犬の心室中隔欠損症について解説し、病気の理解に役立てて頂ければと思います。
同時に、他の先天性疾患に対する理解のきっかけにして欲しいと思います。
心臓の解剖に明るくない方にとっては、どんな疾患かいまいちピンと来ないのではないでしょうか。
しかし犬と一緒に生活をする以上、犬の病気について知っておくことは非常に重要です。
あらかじめ病気のことを知っておくことは、いざという時に素早く対処する準備になります。
本記事では犬の心室中隔欠損症の症状、診断、治療から予後まで解説していきます。
心室中隔欠損症とは何なのか、診断されてしまったらどうするのか、考えながら最後まで読んで頂ければと思います。
犬における循環生理
血液は、心臓の右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈→大静脈→右心房→右心室という順に流れています。
また心臓は4つの部屋(左右心房と左右心室)に分かれており、血液が混ざらないようになっています。
この中で、右心室の血液は酸素が少なく、反対に左心室の血液は酸素が多く含まれています。
さらに全身に血液を送る必要がある左心室の方が、右心室よりも大きく、血圧も高くなっています。
心室中隔とは左右の心室を分ける壁のことで、この壁が生まれつき無い、または壁に穴が開いている状態であることを心室中隔欠損と言います。
心室中隔の欠損により、血液の流れに不具合が生じ、心臓に大きな負担がかかってしまいます。
心室中隔欠損症が発生しやすい犬種
諸外国と日本では、飼育頭数や人気犬種に差があるために一概には言えませんが、以下の犬種で心室中隔欠損症が発生しやすいと言われています。
・柴犬
・ミニチュアダックスフント
・フレンチブルドッグ
また犬の先天性心疾患の中で、心室中隔欠損症が占める割合は6.2~15.2%と言われています。
決して少ない数字ではありませんので、子犬の時期に健康診断を受けることをおすすめします。
犬の心室中隔欠損症の症状
心室中隔の穴(欠損孔)が小さい場合には、ほとんど問題になることはありません。
稀にですが成長につれて欠損孔が閉じることもありますので、症状が現れないうちは定期的な検診を行えば十分でしょう。
一方、欠損孔がある程度大きい場合には左心室から右心室への血液の短絡が起こります。
すると右心室から出ていく血液量、および左心房と左心室に入っていく血液量が増加し、左心系への負荷が大きくなります。
左心は拡大し、咳や運動不耐性(疲れやすい)などの症状が現れます。
さらに病態が進行し、肺動脈の肥厚とともに肺高血圧が生じると、血液の短絡は右心室から左心室へと逆転します。
酸素の少ない血液が全身を巡ることになるため、チアノーゼ(粘膜が青くなる)が認められます。
犬の心室中隔欠損症の診断
犬の心室中隔欠損症の診断は、聴診および画像検査によって行います。
・聴診
胸部の聴診にて、心雑音を認めます。
心室中隔欠損症に限らず、子犬の時期の心雑音は先天性心奇形が疑われるため、注意が必要です。
・単純X線検査
左右心室の拡大や左動脈の拡張などが確認できます。
心室中隔を直接確認することはできないので、あくまで病態の把握を評価します。
・血管造影
心臓に造影剤を注入することで、血液の流れを描出します。
これによって心室中隔からの血液の逆流が確認できます。
また聴診のみでは困難な、動脈管開存症との鑑別も行います。
・胸部超音波検査
胸部超音波検査によっても心室中隔の欠損孔が確認できます。
また欠損部の血流速度を測定することで、欠損孔の大きさを推定することが可能です。
すなわち、ホースの口をつまんだ方が水が勢いよく噴出するように、欠損部が小さいほど血流速は速くなります。
犬の心室中隔欠損症の治療
犬の心室中隔欠損症の根本的な治療は、外科手術によって欠損部を整復することです。
しかしこの手術は心臓を開く必要があるため、特殊な設備が必要となります。
よって、大学病院や循環器の専門病院での手術が予想されます。
一方でカテーテルを用いて欠損孔にアプローチし、欠損部を塞ぐ経皮的血管内治療という方法もあります。
欠損部の位置や大きさによって適切な治療を選択していく必要があります。
また、肺への血流を少なくするために肺動脈を縛るといった手術もあります。
しかしこれは心室中隔の欠損部に直接アプローチするわけではなく、根本的な治療とは言えません。
さらに肺高血圧によって右心室から左心室への短絡が起こっている場合には、外科手術は禁忌となっています。
あらかじめ利尿薬や血管拡張薬を投与することで、肺への負担を軽減してから手術を行うことが推奨されます。
チアノーゼが見られる症例では酸素吸入を行い、入院や自宅への酸素室のレンタルなどが必要となります。
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