犬の心タンポナーデって何?パニックにならないための知識を紹介!
急な虚脱や失神のために動物病院に緊急搬送されることも多いですが、その背景には腫瘍などの疾患が存在し、定期的な健康診断によってリスクを回避できることもあります。
本記事では犬の心タンポナーデについて解説し、犬のQOLを少しでも上昇させることを目的とします。
獣医師としても、緊急疾患であるため診察室内でゆっくりと説明する機会も少ないのが現状です。
しかし心タンポナーデは腫瘍と関連することも多く、犬の寿命が延長している昨今では報告も多くなっている病態です。
そこで本記事では、犬の心タンポナーデの症状や診断、治療から予後まで解説していきます。
日常生活において愛犬の異変に気付ける手助けになればと思いますので、最後まで読んで頂きたいです。
心タンポナーデとは
心臓は心膜という膜に覆われており、その心膜と心臓の間(心膜腔)は心膜液で満たされています。
正常な量の心膜液は、心臓の活動を円滑にする潤滑油の役割をしています。
しかし心膜腔に液体が過剰に貯留し、心臓の動きを阻害する状態を心タンポナーデと言います。
心タンポナーデは緊急疾患に分類され、救急処置が求められます。
また元々心疾患を持っている犬は、少量の心膜液貯留でも心タンポナーデに陥ることもあります。
心タンポナーデの原因
心膜液の過剰な貯留の最も一般的な原因は腫瘍で、心膜液貯留の60~70%を占めると言われています。
腫瘍の中でも右心房に発生の多い血管肉腫、および心膜原発性の中皮腫の発生率が高くなっています。
腫瘍による心膜液の貯留は腫瘍からの出血によるもので、7歳以上の犬で見られます。
また原因不明の特発性の心膜液貯留も症例の30%程で発生します。
他にも炎症やうっ血性心不全でも心膜液貯留が引き起こされることがあります。
心膜液貯留の速度は病態によって異なりますが、一般的に150~1,500mlの貯留が認められます。
心タンポナーデの病態生理
心膜液の貯留によって心膜腔内の圧力は上昇し、心臓を圧迫します。
すると心臓の拡張が阻害され、1回の拍出によって全身に送り出される血液量は減少します。
心臓は心拍数を増加させることによって血液量を確保しようとしますが、血圧は低い状態のままです。
また心膜内圧の上昇は静脈圧の上昇を招き、重度の右心不全を引き起こし、うっ血により胸水や腹水の貯留が認められます。
さらに呼吸によって肺が膨らむことで心臓をさらに圧迫し、呼気時にさらに心拍出量と血圧が低下します。
心タンポナーデの症状
心膜液貯留が軽度の場合は症状が見られないこともあり、症状が出たとしても元気消失や食欲不振など非特異的なものが多いです。
しかし心膜液貯留が重度になると、腹水貯留による腹部膨満や、胸水貯留による呼吸困難・低酸素血症などが見られます。
また心膜液貯留の原因が血管肉腫であり、心臓だけでなく脾臓や他の部位に転移すると、それぞれの部位に関連した症状が発現します。
さらに、心房破裂による急速な心膜腔への血液貯留が起こった場合は、突発低血圧、虚脱、突然死が起こることもあります。
心タンポナーデの診断
心膜液の異常な貯留を検出する必要がありますが、見逃さないためにも複数の検査を行い、診断を進めていきます。
・聴診
心膜液の貯留のために心音が不明瞭になります。
定期的に聴診を受けていないと変化に気付くのは困難かもしれません。
・心電図検査
心臓は心膜液の中で、拍動するたびに先端が動くようになります。
そのため、心電図検査では波形が交互に大きくなったり小さくなったりします。
これを電気的交互脈と言いますが、これは心膜液貯留時にしか認められない所見であり、診断的価値は高いと言われています。
・単純X線検査
心膜液貯留のため、丸い心影が認められますが、少量の場合はこの所見は顕著ではありません。
また右心不全を呈している場合は胸水の貯留が認められ、全体的に胸部が白く見えます。
・胸部超音波検査
心膜液の貯留の程度を確認できる有用な検査法です。
大量に心膜液が貯留している場合、心膜液の中で揺れている心臓を確認することもできます。
また右心房などを精査し、腫瘍の有無を確認します。
・心膜穿刺
心膜腔に針を刺し、心膜液を採取して性状を検査します。
腫瘍に関連した心膜液の貯留であれば、血液に近い性状を呈します。
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