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大型犬の心臓病 〜拡張型心筋症について

獣医師
増山綾乃
[記事公開日]  [最終更新日]
犬や猫では、心臓に関連した病気、つまり心臓病が発生しやすいことが知られており、病態によりさまざまな疾患が知られています。その中の一つに、「心筋症」と呼ばれる心臓の筋肉に起こる疾患が存在します。今回は特に、犬で発生の多い「拡張型心筋症」という疾患について解説します。
[ 目次 ]
大型犬の心臓病 〜拡張型心筋症について

そもそも心筋症とは?

心臓は心筋と呼ばれる筋肉から構成されており、心筋がタイミングよく収縮や拡張を繰り返すことで全身に血液を送り出すポンプとして働いています。この心筋の異常により心臓のポンプ機能が損なわれ、全身にうまく血液を送り出すことができなくなるのが心筋症です。心筋症は病態によりおおよそ下記の3つに大別されます。

拡張型心筋症

犬で最も多く見られる心筋症であり、特に中高齢の大型犬で多いことが知られています。ドーベルマン、グレート・デーン、ボクサー、セント・バーナードが好発犬種です。このように特定の犬種で発症する傾向があるため、遺伝的な疾患ではないかと疑われていますが、はっきりした原因はわかっていません。

拡張型心筋症では、伸び切ったゴムのように心筋が薄く伸びてしまい、十分に収縮することができなくなってしまいます。また不整脈を併発しやすいといった特徴もあります。

肥大型心筋症

肥大型心筋症では心筋が異常に分厚くなることで、心臓内の血液を貯めておくスペース(心室)が狭くなってしまいます。結果として血液の循環が滞り、十分な血液を送り出すことができなくなります。

肥大型心筋症は犬では発症は稀であり、猫で一般的な疾患です。

拘束型心筋症

心筋がなんらかの原因で硬くなり、うまく拡張できなくなる疾患です。感染症との関連も指摘されていますが、はっきりとした原因はわかっていません。

拘束型心筋症も猫で比較的多く見られる疾患です。

大型犬の心臓病 〜拡張型心筋症について

拡張型心筋症の症状

心臓病は一般的に初期症状が分かりにくく、気づいた時には病気が進行してしまっているケースがほとんどです。また血液の流れが滞ることで全身に症状を出すため、心臓病が原因であると気づかれない場合もあります。ここでは、一般的に拡張型心筋症で見られることの多い症状についてご紹介します。

・運動不耐性

お散歩に行きたがらない、すぐに疲れてしまう、階段を嫌がる、などといった状態を運動不耐性と呼びます。心臓は肺から取り込んだ酸素を多く含む血液を全身へ送り届ける働きをしているため、この働きがうまくいかなくなると酸素が欠乏し、疲れやすくなります。疲れやすくなったのは年のせいだと思われて見逃されることも多く、注意が必要です。

・食欲不振

心筋症により内臓の血流も悪くなるため、食欲が減ったり、場合によっては下痢や嘔吐といった症状を起こすこともあります。また、後述するように呼吸が苦しくなると食べ物を飲み込めなくなるため、飲食が難しくなります。

・呼吸器の症状

拡張型心筋症が重症化すると、肺胞内に液体が滲み出て「肺水腫」という疾患を合併する場合があります。肺水腫を発症すると、肺で酸素を取り込めなくなり、呼吸不全に陥ります。呼吸が荒く、苦しそうな場合は命に関わります。初期の肺水腫では、肺胞内に貯留した液体を排出しようとして咳き込む様子が見られることもあります。

・突然死

前述したように、拡張型心筋症では不整脈を合併することも珍しくありません。軽度であれば問題ありませんが、致死的な不整脈が突然発生し、突然死を招くこともあります。

拡張型心筋症の診断

拡張型心筋症の診断は、下記のようにさまざまな検査を用いて行われます。

・身体検査

症状のない初期の段階では、心音を聴診することで拡張型心筋症を疑うことができます。心雑音が聴取された場合、後述の心エコー検査を行うことで拡張型心筋症の有無を見極めることができます。

症状がかなり進行し、呼吸不全に陥っている場合、肺にも雑音が聞こえることがあります。また粘膜の色が紫色になっている場合、体が酸素欠乏に陥っているサインです。

・レントゲン検査

初期の拡張型心筋症では大きな変化が見られないこともありますが、進行してくると心臓の形状や大きさに異常が見られるようになります。また肺水腫を合併している場合、レントゲンで肺に白い影がうつります。

・心電図検査

不整脈が疑われる場合は心電図検査を行い、どのような不整脈が出ているのかを確認します。

・血圧測定

拡張型心筋症が進行すると、血流が滞ることで血圧が高くなることがあります。著しい高血圧は心臓に負担をかけてしまいます。

・心エコー検査

心臓のエコー検査では、心臓の動きをリアルタイムで観察することで心筋の厚さや運動性を評価することができます。それにより拡張型心筋症の重症度や、肺水腫を発症するリスクについても推測することができます。

大型犬の心臓病 〜拡張型心筋症について

拡張型心筋症の治療

残念ながら拡張型心筋症を完治する方法は確立されていません。一般的に、下記のようなお薬を使うことで心臓の負担を減らし、肺水腫や致死的な不整脈を予防する治療が行われます。

・強心剤

心臓の収縮力を高めるお薬で、収縮力の弱まった心筋をサポートする働きをもちます。小型犬の心臓病などでも一般的によく使用されるお薬です。

・抗不整脈薬

不整脈の種類によりさまざまなお薬が使用されます。

・利尿剤

肺水腫に対して非常に有効なお薬です。肺水腫になってしまった場合や、肺水腫のリスクが高いと判断された場合に使用されます。排尿を促進することで体液の量を減らし、肺胞内に液体が滲み出ることを予防する役割をもちます。

・降圧剤

拡張型心筋症が進行すると、血圧が上がり心臓に負荷をかけてしまうことが多くあります。降圧剤を用いることで血圧を下げ、心臓の負担を軽減することができます。

このようなお薬に加え、心臓の働きをサポートするサプリメントなどを使用する場合もあります。

大型犬の心臓病 〜拡張型心筋症について

まとめ

残念ながら拡張型心筋症はは完治できる病気ではなく、重症化すると命に関わる病気です。しかし、早期発見できれば重症化を予防できる場合があります。大型犬、特に発症しやすいとされている犬種のわんちゃんと生活している場合は、普段の様子をよく観察し、疑わしい様子が見られる場合は早めに動物病院に相談しましょう。

また初期の拡張型心筋症では症状が出ない場合もほとんどです。日頃から健康診断を受け、小さな異常も見逃さないようにしてあげるといいですね。

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