夏に最も気を付けてほしい病気はやはり熱中症です。
熱中症は高温多湿の環境下における高体温、脱水によって生じる全身性疾患で、発症時には意識が混濁し、運動失調、高体温、呼吸速迫、頻脈が見られ、症状が進行すると痙攣発作や虚脱状態となり、処置が遅れると命に関わります。
暑い時期にお日様に長時間あぶられたアスファルトの上などを長時間お散歩すると、ヒトよりも体高の低い犬猫は地面からの輻射熱の影響を受けて体温が上昇しやすく、熱中症を起こしてしまいます。
お散歩以外に屋内や車内で起こるものも頻繁にみられ、特に多いのは、飼い主さんのお買い物中に車内でお留守番をしている間に起こるケースです。
車の窓を開けてエンジンを止めてしまった場合や、車の空調を効かせて出たつもりでも、車内で動物が自由に動ける状況であれば誤ってスイッチに触れてしまうこともあり、飼い主さんが戻ってきたときにはぐったりしていた、というのはよく聞くパターンです。
また、単純に車内の暑さだけでなく、置いて行かれたことや車の周りを知らない人がたくさん通る不安感から激しく吠えたり車内で走り回ったりすることも熱中症を起こす要因の一つです。
熱中症に特に注意が必要なのは、短頭種の犬猫です。
猫の熱中症はそれほど多くありませんが、短頭種の犬(ブルドッグやフレンチブル、パグ、シーズー、チンなど)はもともと気道が狭い、あるいは変形している場合が多く、もともと呼吸があまり上手ではありません。
安静時には支障がなくても、運動時や興奮時、発熱時などには呼吸状態が悪くなりやすく、体温を発散させるためのパンティングをすることでかえって熱中症を悪化させてしまう場合もあります。
また、子犬・子猫、老犬・老猫、心疾患、呼吸器疾患、腎疾患のある犬猫や、肥満、長毛種の犬猫も熱中症をおこしやすい傾向があります。
対策としては、日中の暑い時間帯を避け朝や夕方など比較的気温の低い時間帯にお散歩する、お散歩の途中でこまめに水分補給をする、熱中症対策グッズ(ネッククーラーや濡らした服を着せる、ひんやりマットなど)を活用する、車の中には基本的に置き去りにしない、部屋の室温が極端に高温にならないように空調管理を行うことなどが挙げられます。
熱中症は発症してしまうと致命的になることも多い疾患ですので、ならないように予防することが一番大切です。
万が一発症してしまった場合には濡れタオルなどで体を冷やしながら、すぐに病院へ連れて行きましょう。
夏の高温多湿な環境は、皮膚病をかかえる犬猫にとって厳しい季節になります。
皮膚のコンディションが悪くなりがちなため、膿皮症などの化膿性疾患を起こしやすい他、湿度の上昇により糸状菌や酵母菌が増えやすくなり、それらによる皮膚炎が好発します。
暑さなどによる体調不良から皮膚のバリア機能低下が起こりやすくなることに加え、アレルゲンとなる花粉などが多く飛散することから、アレルギーやアトピー性皮膚炎も悪化しやすい傾向があります。
夏に多く発生するまたは悪化しやすい皮膚病としては、膿皮症、マラセチア性皮膚炎、皮膚糸状菌症などが代表的なものとして挙げられます。
『膿皮症』
膿皮症は皮膚の表面で細菌感染が起こり、皮膚に膿疱や脱毛、発赤、痒みなどをおこす皮膚疾患です。
細菌感染を起こす皮膚の深さによって表面性・表在性・深在性の3つのパターンがあり、深部になるほど症状は重くなる傾向があります。
治療には抗生物資の内服薬投与や薬用シャンプーでの洗浄などを行います。
膿皮症は猫での発生はあまり多くなく、主に犬で様々な犬種にみられる一般的な皮膚疾患です。
『マラセチア性皮膚炎・外耳炎』
マラセチアとは、犬猫の皮膚や耳の中にもともと常在する酵母菌の一種です。
皮脂を栄養源として増殖しますが、通常は少量のマラセチアが存在しても症状を示すことはありません。
しかし何らかの原因で皮膚の免疫状態が低下したり皮脂の分泌が過剰になると、マラセチアが過剰増殖し、その代謝産物に対して皮膚や耳の中が炎症を起こします。
症状としては皮膚の痒み、炎症による赤み、ベタベタした分泌物の付着などの他、特徴的な匂いを発し、皮膚や外耳道の肥厚(苔癬化)や黄色っぽい割と大きなフケが見られます。
マラセチアは皮脂を好むため脂漏体質の犬猫で起こりやすく、犬ではシーズーやコッカースパニエル、ウェストハイランドホワイトテリア、キャバリア、ダックス、ジャーマンシェパードなどで起こりやすいとされています。
また、基礎疾患としてアトピー性皮膚炎や角化異常症、内分泌疾患などがあると悪化しやすい傾向があります。
治療は抗真菌薬の投与や薬用シャンプーによる洗浄、外耳炎に対しては点耳薬の点耳を行います。
『皮膚糸状菌症』
皮膚糸状菌症は皮膚や皮膚の角化組織などに侵入して増殖する皮膚糸状菌によって起こる皮膚炎で、犬猫だけでなく人にも感染することのある人獣共通感染症です。
皮膚には痒み、脱毛、発赤、水疱形成、フケなどの他、皮膚が盛り上がった肉芽腫病変を作ることもあります。
治療のためには症状が出ている部位の周囲を広めに毛刈りし、薬用シャンプーでの洗浄や外用薬の塗布を行います。
また、抗真菌薬の内服投与を同時に行います。
ここに挙げた皮膚疾患以外にも、アトピー性皮膚炎では様々なアレルゲン(花粉や節足動物など)が増加するために症状が悪化しやすく、またこれらの原因によって皮膚表面の免疫が低下することによって、二次的にニキビダニ症などが起こりやすくなることもあります。
いずれにしても皮膚の治療は早期発見・早期治療が重要ですので、異変を感じたらすぐに病院へ連れて行きましょう。
夏は動物に寄生する寄生虫や節足動物も活発に活動する時期です。
犬糸状症の予防については飼い主さんの中でも年々予防意識が高まり、現在はかなり予防が浸透してきているように感じます。
しかしフィラリア以外にも予防が必要なものがあります。
草むらに入ったり他の犬猫と外で接触する機会が増えると、ノミやダニの寄生が増加し、また耳ダニ(耳ヒゼンダニ)や疥癬(ショウセンコウヒゼンダニ)など小型のダニの寄生による皮膚炎も多く見られます。
ノミが原因となる大きな問題の一つに、ノミアレルギー性皮膚炎があります。
ノミが刺すことによる皮膚の炎症ではなく、ノミの唾液に対するアレルギー反応により、全身に強烈な痒みを引き起こす皮膚炎です。
また、ノミが大量寄生した子犬・子猫では、体が小さいためにノミの吸血による貧血が起こることもあるため、注意が必要です。
ダニもまたライム病や、血液に寄生するバベシア、ヘモプラズマなどといった様々な感染症を媒介します。
ライム病はダニが媒介する最近の感染によって関節炎や発熱を起こす病気です。
バベシアやヘモプラズマは血液に寄生する寄生虫で犬猫に重度の貧血を起こす原因となります。
また、ノミが寄生している犬猫では、消化管内にサナダムシが高率に寄生しています。
これはノミがサナダムシに感染している動物の糞便を食べた際にサナダムシの卵をノミの体に取り込み、そのノミが他の動物に寄生すると、毛づくろいの際にノミを口から摂取してしまうことがあり、それによってサナダムシが消化管内で成長して寄生が成立するためです。
子猫や子犬では下痢などの消化器症状を示し、また十分に食べていても痩せてしまうことがあるため注意が必要です。
治療としては駆虫薬の塗布による駆虫と、二次的に起こった感染症や症状に対する治療を行います。
あらかじめ予防薬を付けておくことでこれらの疾患にかかるリスクを減らすことができます。
飼い主さんのアウトドアレジャーが活発になるにつれ、それに伴う事故なども増加傾向になります。
バーベキューなどの際にタマネギや、消化しきれないサイズの食物(骨やトウモロコシの芯など)、異物の誤食(焼き鳥を串ごと食べてしまうなど)が多く起こります。
場合によっては消化管閉塞や消化管穿孔等を起こす場合もありますので、誤食には十分に気を付けましょう。
また川遊びをする犬ではレプトスピラへの感染にも警戒が必要です。
あらかじめ予防接種をしておくなど、対策をとっておきましょう。
夏はペットとのお出かけの機会も増え、ペットとの思い出を作るのにも最適な季節です。
しかし、警戒しなければならない疾患も上記のようにいくつか存在します。
それらに対してあらかじめ備えておくことで、夏のいい時期をペットと楽しく過ごしましょう。