犬も猫も加齢に伴い、目には見えないスピードでゆっくりゆっくりと体が衰えていきます。
若い時に比べると筋力の低下に加え、関節の動きがスムースにいかなくなることもあり、歩くスピードが遅くなったり、以前は気にしなかった段差で躊躇するようになり、関節炎等を起こしている場合には歩くことを嫌がったり、ぎこちない歩き方になるケースもあります。
犬は外でお散歩する習慣があるためにこのような変化がわかりやすい傾向がありますが、猫の場合は主に室内飼育でもともと寝ていることが多いため、意識して見ていなければこのような変化に気づかないこともあるかもしれません。
このような変化が起こると、排泄の失敗や将来的には寝たきり状態になってしまうことがあり、そのケアについて頭を抱える飼い主さんも数多く見られます。
さらに、運動器だけでなく脳の機能低下も見られることがあり、その対応はさらに難しいものとなります。
① 排泄の失敗
足腰が弱ってくると、トイレに向かう途中で排泄してしまう、トイレに着いた段階でトイレからはみ出して排泄してしまう、などといった失敗が増え、飼い主さんを悩ませるようになります。
特に猫の尿は臭いがきついため、ソファーやベッドなど布製の家具の上で排泄されてしまうと洗うこともできず困ってしまいますね。
排泄の失敗が頻繁になった場合は、オムツを着用させることを検討しましょう。
初めは嫌がることも多いですが、多くの場合は徐々に慣れて許容してくれるようになります。
どうしても嫌がるようであれば、家具に洗うことができる裏面に染みこまないタイプのカバーをかけたり、トイレの周りに大きめのペットシーツを敷き詰めておく、よく失敗してしまう場所やベッドの近くにトイレを増設するなどといった方法もあります。
猫の場合、トイレの段差を超えられないようになるシニア猫も多く見られます。
入り口の段差が低く設計されているものや緩いスロープを付けてあげることでアクセスしやすくしてあげると失敗する確率も減る可能性があります。
② 大型犬の場合は介助グッズをそろえておきましょう
大型犬が立てない、歩行がおぼつかないといった状態になると、飼い主さんが一人で移動させたりお散歩の介助をするのは非常に困難です。
中には頑張りすぎて飼い主さんが体を痛めてしまう場合もあります。
大型犬は小型犬に比べシニア期が早く訪れますので、飼い主さんはそれに対する準備をあらかじめしておかなくてはなりません。
もともと外でしか排泄しないワンちゃんの場合、立つこともおぼつかない状態になっても外に出て排泄しようと、排尿や排便を我慢してしまう子もいます。
シニア期が近づいたら、将来的に外に行くのが困難になることも想定して室内での排泄を練習しておくようにしましょう。
またリードを首輪ではなく、ハーネスタイプに変えることもおすすめです。
前足の動きが悪い場合は胸から両前肢を通す胴輪で体を少し支えてあげると歩行が安定します。
後ろ足の動きが悪い場合も同様に両後肢を通して履かせるようなハーネスを付け、腰のあたりで支えて補助してあげるとスムースに歩くことができます。
ハーネスを付けることで飼い主さんも非常に補助しやすくなります。
足腰が少し弱ってきても可能であれば極力お散歩に連れて行き、少しでも足を動かすことが筋力の低下を遅らせることにつながり、動物自身の精神的な健康面にも良いと考えられます。
全く立てないような状態になってしまった場合には、大量のおしっこを吸い込むことができる大型で厚手のペットシーツが必要です。
排泄した時にはどうしても毛が濡れてしまうため、すぐにふき取り、シーツも交換しましょう。
毛の長い品種の子であれば、お尻周りの毛を短めにカットしておくと衛生状態を保ちやすくなります。
寝たきりの状態になると、褥瘡(床ずれ)ができやすくなります。
重度の褥瘡では皮膚や皮下組織が壊死して骨まで到達してしまう場合があり、そこに感染を伴うと命の危険もあります。
褥瘡を予防するためには低反発のマットを敷いたり、数時間おきにこまめに寝返りをさせてあげる必要があります。
大型犬の介護は、ヒト一人の介護を行うのと同等の大変さがあります。
家族にも協力してもらい、全員で愛犬・愛猫の介護に臨みましょう。
③ 認知症を発症することがあります
高齢期の最も重大な問題の一つに認知症があります。
猫ではあまり多く見られませんがやはり発症することがあり、犬でも猫でも高齢になるにつれ発症率が上がります。
特に人気の高い日本犬(柴犬など)で発症することが多い傾向があります。
認知症の症状は様々ですが、飼い主さんを悩ませる症状には以下のようなものがあります。
・無目的な吠え
・昼夜の逆転
・徘徊
特に共同住宅などで飼育している場合、夜中に何時間も吠えることで近隣の住人から苦情が出てしまうことがあります。
そうなるとさらに飼い主さんのストレスは増大してしまいます。
認知症の症状や進行の程度はそれぞれ異なりますが、初期であれば食事やサプリメントで症状を緩和できることがあります。
また夜は寝てもらいたいという場合には、鎮静作用のあるお薬を病院で処方してもらうこともできます。
一人で認知症の動物と向き合っていると大変さだけが募り、それまで過ごした楽しい思い出も薄れてしまいます。
一人で悩まずに困った状況があれば動物病院に何度でも相談し、ペットにも飼い主さんにも負担の少ない対策を考えていきましょう。
歳をとると若い時のような無邪気な活発さは徐々に落ち着き、歩く速度が遅くなったり、耳が遠くなったかな?と感じるようなことや、眼が白っぽく見える、毛艶が悪くなった、食が細くなった、体の線が細くなった、最近寝てばかりいる、などと感じることがあります。
実際、加齢性変化としてもこのような変化は起こるものですが、中には高齢期特有の疾患が起こっていることもあります。
せっかく変化に気づいたのであれば、『歳だから…』と納得してしまうのではなく、健康診断を受けて体の状態をチェックしてあげるようにしましょう。
特にシニア期に多く見られる疾患は以下の通りです。
・歯周病
・内臓疾患(心臓病、腎臓病、肝臓病など)
・ホルモン疾患
・腫瘍性疾患
歯周病は歯を支える組織(歯肉や歯槽骨、歯周靱帯など)に感染や炎症が起こり、その構造が破壊されてしまう病気です。
高齢犬・高齢猫は若い時に比べると食が細くなる、硬いものが食べづらくなる、といったことがありますが、その原因は歯周病であることが少なくありません。
歯周病になると歯のぐらつきや痛み、炎症による腫れ、出血、歯根膿瘍やその破裂などが起こり、食べたいのに食べることができなくなってしまいます。
また口腔内のみならず、歯周病菌が血行性に移動することによって心臓などの他の臓器にも悪影響を及ぼすことがわかっています。
食べる楽しみを奪い全身的にも悪影響を与える歯周病を放置しておくことは危険です。
治療には麻酔をかけて行う歯科処置が必要で、多くの場合は抜歯を必要としますが、早期発見・早期治療を行えばより多くの歯を残すことができます。
万が一全ての歯を抜くことになっても食事は可能ですが、硬いものを咬んで食べる楽しみはなくなってしまいますので、できるだけ早く治療してあげたいものです。
内臓疾患に関しては、高齢期には特に心臓病や腎臓病が多く見られます。
心臓病は犬では僧帽弁閉鎖不全症、猫では肥大型心筋症の発生が比較的多く見られます。
これらの心臓疾患では心臓の形体に変化が起こり、血液を全身に送り出すという心臓の機能が低下するために全身の虚血やうっ血による肺水腫、それに伴う呼吸困難、運動不耐性、不整脈などがみられます。
心臓疾患の初期は症状がわかりにくいことがあり、発見が遅れてある程度進行してしまった状態になると、心臓が大きく拡張・肥大するといった不可逆的な変化が起こってしまいます。
投薬治療によって症状をある程度緩和することはできますが、早期治療を行った場合に比べるとやはり寿命は短くなってしまいます。
慢性腎臓病は犬でも猫でもシニア期によく見られる疾患です。
腎臓は体で作られた老廃物を漉しとり、尿として排泄する器官です。
腎臓病を発症すると正常に機能できる腎臓の細胞が徐々に減少し、その程度によって多飲多尿、食欲不振、元気低下、吐き気、下痢、貧血などといった症状を示し、末期になると尿毒症から神経症状なども示すようになり、最終的には命を落としてしまいます。
治療は食事療法や投薬治療、点滴治療などが行われますが、腎臓に起こる萎縮などの変化は不可逆的なため、やはり早期に治療を開始することが重要です。
腫瘍性疾患は多岐にわたり、どこにどんな腫瘍が形成されるかはわかりません。
体表面に病変を作るような腫瘍であれば発見も早くなりますが、脳や内臓、血液の腫瘍では発見が遅れてしまうこともあります。
特に多くみられるものとして、避妊手術をしていない犬猫では乳腺腫瘍の発生が多く、リンパ腫や肥満細胞腫といった腫瘍は犬でも猫でも皮膚表面や内臓などに様々な部位に発生することが多い腫瘍です。
腫瘍性疾患もまた早期発見・早期治療が重要です。
上記のような疾患を早期に発見するためには、初期症状を見逃さないことも挙げられますが、中にはあまり症状を示さないタイプの疾患もあり、症状がみられた場合にはすでにかなり進行してしまっているケースも多く見られます。
そのため、症状がみられるようになるまで待つのではなく、症状がなくても自発的に健康診断を受けるようにして早期発見に努めることが重要です。
一見元気そうな犬猫でもシニア期に突入する7歳ころには1回、その後もできれば1年に一回程度は健康診断を受けると良いでしょう。
健康診断の内容は病院によって異なります。
尿検査・便検査・血液検査は比較的基本的なセットとして行われますが、レントゲン検査や超音波検査は希望に応じて、あるいは必要に応じてという病院も多いようです。
心臓病や腫瘍性疾患は、血液検査まででは見つからないことも多いため、毎回ではなくてもレントゲン検査や超音波検査を時々受けることをお勧めします。
また心臓疾患の好発品種の場合は高齢期でなくても早めに健康診断を受けるようにする方が良いでしょう。
① 食事を定期的に見直しましょう。
犬や猫はヒトに比べると非常に早く歳を取り、ヒトの4倍ほどの速さで老化が進みます。
そんな愛犬・愛猫の健康寿命を延ばすためには、食事内容を定期的に見直すことが非常に重要です。
食事は体を作る源です。
市販されているフードが年齢別にパッケージを分けて販売されているのは、年齢のステージによって必要なエネルギーや栄養成分が異なるからです。
成長期にはより多くの栄養とエネルギーを必要としますが、成長期が終わった時点では肥満にならないように高栄養の食事からバランスの取れた成犬・成猫用のフードに切り替える必要があります。
中高齢期に突入する7歳頃には、外見上の変化はまだあまり見られませんが、消化機能に少しずつ衰えが出始めており、食事もそれに合わせて消化性の良いシニア用のフードに切り替えていく必要があります。
また、何らかの持病が出始める時期でもあるため、心臓病や腎臓病、肝臓病などが見つかった場合にはそれぞれに対応したフードを与えることが病気の進行予防になります。
市販食の多くはさらに高齢期のフードとして、10歳以上用、15歳以上用など細かく栄養成分が調整されたものも販売されています。
ライフステージに合わせた食事は、その時期に起こりやすい疾患に対応した組成となっているため、上手に食事を切り替えて健康な体を維持してあげましょう。
② 生活環境を見直し整えましょう。
足腰の衰えた犬猫は、若い時には気にも留めなかった段差などで躓いて転んだり、高いところからジャンプしたときに着地に失敗することで思わぬ怪我をしてしまうことがあります。
少しでも怪我のリスクを減らすためには、フローリングなど滑りやすい床には滑らない素材の敷物やマットを敷く、段差にはスロープを付ける、猫の場合は高いところに上れないようにする、あるいはステップを増やしてジャンプしなくていいようにするなど、環境整備をしてあげる必要があります。
また、高齢になると体温調節もうまくできなくなってしまうことがあります。
春や秋はあまり問題になりませんが、真夏や冬は室温をエアコンなどで調節し、熱中症や低体温にならないように気を付けてあげましょう。
寒い冬にはペット用のヒーターマットなどを活用する方法もありますが、自力で移動できない、寝返りできない犬猫で使用してしまうと低温ヤケドを起こしてしまうことがありますので、その使用については気を付けなくてはなりません。
③ 介護に対する心づもりをしておく
シニア期の動物は、介護が必要な寝たきり状態になることもあります。
体の小さな小型犬や猫では比較的ケアしやすいですが、一日の中で何度も排泄の介助をし、寝返りをさせ、食事を補助して食べさせるとなると、それだけでも飼い主さんが精神的に疲れてしまうことがあります。
さらに中型犬以上の体格の犬、とりわけ大型犬の場合は、寝返り一つをとっても重労働となるため、飼い主さん自身が体調を崩してしまうこともあります。
介護をするということは、小型犬や猫であっても本当に大変ですが、あらかじめ覚悟しておくかどうかによってその向き合い方が変わります。
一人で頑張りすぎるといつか限界が来てしまいますので、家族みんなで協力してお世話をしてあげることが大切です。
また介護を手伝ってくれるペットシッターさんや一時預かりをしてくれる病院、施設などをあらかじめ探しておき、手が足りない場合や疲れた時、どうしても家を空けなければならない時など、いざという時にお願いできるようにしておきましょう。
長年連れ添った愛犬・愛猫を最期まで笑顔でお世話できるように、飼い主さんも頼れる場所、相談できる場所を確保しておくことが大切です。
ペットのシニア期には様々な問題が起こります。
歳をとったら穏やかに家で過ごし、眠るような最期を迎えてほしいと願う飼い主さんも多いと思いますが、現実には病気になったり介護が必要になることも多く見られます。
長年共に過ごした愛犬・愛猫が衰えて弱っていく姿を見るのは少しつらいことですが、その時々にできることを一つ一つしてあげ、感謝の気持ちを持って最期を見送ってあげられるようにしたいものですね。